「未来社会の実証実験展」イベントレポート 2024年3月1日(金)・2日(土)
「未来社会の実証実験展」イベントレポート
咲洲テック・ラボ・プログラム 成果発表
2024年3月1日(金)・2日(土)の2日間にわたり、大阪・咲洲のATC O’s棟北館3F ウミエールキューブにて、ミライのくらしを体験する「未来社会の実証実験展」が、ソフト産業プラザ TEQSの主催で開催されました。
本イベントは、実証実験フィールドに見立てた会場に、新しいテクノロジーを体験型展示することで、未来社会のテクノロジーとビジネスの在り方を観て体験してもらうというものです。
開催初日の3月1日(金)はビジネスデーとして展示や商談会に加えて、各種のビジネスセミナーを実施。展示内容を体験しながら、協業パートナーを探す方や自社事業へのヒントを探すビジネス関係者で賑わいました。
翌日の3月2日(土)のパブリックデーでは、子供を対象とした体験イベントやワークショップを数多く開催。未来社会の不思議体験ができる展示内容をご家族で楽しむ姿が多く見られました。
また、本イベントにおいて未来社会をテーマとした最新テクノロジーの体験型展示を用意してくれたのが、“新しい領域で社会実装に挑戦する企業を応援するプログラム『咲洲テック・ラボ・プログラム』へ2023年度に参加してくれた14企業(13社出展)です。各企業にとっては『咲洲テック・ラボ・プログラム』の成果発表の場でもあり、多くの一般ユーザーに自分たちが考える未来社会のテクノロジーを体験してもらう場でもありました。
本レポートでは、各企業の展示内容の紹介と『咲洲テック・ラボ・プログラム』での成果やメリットについて、お話いただいています。
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①モビリティ(遠隔操縦・建設分野)
建機遠隔操縦Simulator/ORAM株式会社
精巧な建機油圧模型を用いた、建機遠隔操縦体験を展示していたのが『ORAM株式会社』。同社は建機・物流車両に後付けして遠隔操縦を可能とする装置の開発や、遠隔操縦の普及・施工効率向上のためのアプリケーション開発に取り組んでいる企業です。今回のイベントでは、1/12 スケールの建機油圧模型によって、近未来には標準的な働き方になると予想される建機の遠隔オペレータ操作体験ができるブースを展示していました。「咲洲テック・ラボ・プログラムではたくさんの参加メリットを感じました。弊社であれば今回展示しているシミュレーターの制作費などは、このプログラムでご紹介いただいた補助金を活用していますし、何よりシミュレーターを常設展示できる場所(5G X LAB OSAKA)がオフィスのすぐ隣にあることはメリットです。それに5Gラボの訪問者には、産業局の皆さんが私の代わりに説明もPRもしてくれます(笑)。5Gで連携しているソフトバンクさんとも通信技術について相談させていただけますし、弊社としては至れり尽くせりのプログラムでした。次はフォークリフトの遠隔操縦を準備中で、それも、このプログラムを通じてATCの物流センターで実証実験予定です」(代表取締役/野村光寛氏)
②モビリティ(遠隔操縦)
1/10サイズのクルマに乗る!(Cockpit-FPV)/C1株式会社
『C1株式会社』が体験展示していたのが、実車の1/10サイズのラジコンカーを、ARグラスに映る車載カメラ映像を観ながら遠隔操縦する、バーチャルとリアルが融合した近未来のモビリティ技術です。自動車や飛行機などの熟練操縦者不足が叫ばれている中、同社の事業コンセプトは遠隔技術によって操縦者のエキスパートを育成すること。ただし実機ではなく、1/10サイズの車や飛行機などの遠隔操縦技術を用いたエンターテイメント競技として技術向上を図るというものです。「技術的には可能ですが、当社で実機をつくるつもりはありません。それは大手に任せて、私たちは操縦者の育成に特化します。1/10サイズのラジコンカーであれば、原理は同じで調整もすぐです。クラッシュして壊れることもほとんどありません」と代表取締役の林佑樹氏。「咲洲テック・ラボ・プログラムでは実証実験の場を多く用意してもらえたのがメリットでした。2023年10月のATCロボットストリートでは体験チケットが即完売で、利用者の反応が間近で感じられて良かったです。また大阪・関西万博への出展も目指しているのですが、その準備もこのプログラムを通じて進んでいると感じています」。
③モビリティ(自動運転)
Virtual Motorsport Lab/Virtual Motorsport Lab Inc.
自動運転レース大会の企画・運営を手掛ける『Virtual Motorsport Lab Inc.』。同社では、Pythonのプログラミングを使って、自動運転のレーシングカー開発に取り組み、他の参加者と競争することで楽しみながらプログラミングやAIについて学べる体験型ワークショップを展示していました。利用対象者は初心者からプロエンジニアまでと幅広く、初心者向けにはパラメータの数値を変更するだけでもラップタイムが変動するように設定したプログラムを用意されています。ご自身もリアルな自動車業界でエンジニアとしての経歴を持つ代表取締役の山下洋樹氏は「先日の中高生向け大会ではシミュレーターが2万回以上回りました。今年中に全国大会を開催して、いずれは世界大会を実施したいと思います。その上で自動車産業やモータースポーツに興味を持ってくれる人が増えて、リアルな自動車に応用できる技術やアイデアが見つかれば良いですね」と話す。「テックラボに参加したことで露出機会が増えたことは大きかったです。イベント展示を通して、子どもたちに体験してもらう機会も多かったですし、企業さんとの面談の機会もいただきました」と参加メリットについても語ってくれました。
④ヘルスケア(脳波・脳トレ)
次世代型バーチャル 認知脳トレーニング『Wavex』/株式会社Mirai Innovation 研究所
脳波を使った認知脳トレーニングシステム『Wavex』を研究開発したのが『株式会社Mirai Innovation 研究所』。『Wavex』は利用者がVRヘッドセットを装着することで脳波が分析され、それぞれに合わせてパーソナライズされた脳トレーニングの課題を体験できる、まさに未来を感じさせるツールです。「今回はバーチャル空間に表示された自動販売機でルールに従って商品選択をするプログラムなのですが、単純だけど意外に難しいです(笑)。将来的には介護施設などで高齢者に利用していただき、外出できなくてもバーチャルで買い物などを体験してもらうことで、認知力の低下を防ぐサービスになると考えています」と話すのはメキシコ出身のCEOペナロサ クリスチャン氏。「咲洲テック・ラボ・プログラムに参加したことで、このようなイベントに出展する機会をたくさんいただき、利用者のフィードバックをいただくことができました。また人脈も多くご紹介いただけたことが、弊社にとっては大きなメリットになっていると感じます」(クリスチャン氏)
⑤ヘルスケア(歯科領域)
AIを用いた歯科の健康相談「mamoru」/株式会社Dental Prediction
歯科医師でもある宇野澤元春氏が代表取締役を務める『株式会社Dental Prediction』が開発した歯科の健康相談アプリ「mamoru」。同アプリを利用することでユーザーは、歯や口腔内のことが歯科医師へ気軽に相談でき、目的に応じたクリニックの検索や予約が可能となります。また同アプリでは数多く寄せられる相談に、まずAIチェックを行った後、医師が確認するスキームを採用。素早い対応と質の良い回答を実現しています。「咲洲テック・ラボ・プログラムに参加した時点でプラットフォームは概ね完成していましたが、AIチェックの精度が高まりましたし、13ヶ国の言語にも対応可能となりました。また何よりも実証実験の機会を多く準備してもらえたのがメリットです。健康に関心が高い企業様をご紹介いただき、多くの社員の方にアプリを試していただいた他、ロボットストリートのような場所では一般ユーザーの方にも案内できました。多くのフィードバックをもらえたことで、アプリの完成度は高まったと感じています」と宇野澤氏。2024年4月には楽天との連携も行われ、歯の相談や歯科受診に対して楽天ポイントが付与されるサービスも開始される。
⑥ヘルスケア(健康・予防・リハビリ)
WalkCare/TRY & TRI×森ノ宮医療大学×フォーカスシステムズ×TOPPAN
4つの企業と大学が合同で研究開発している『WalkCare』は、足の状態を可視化することができるサービスです。簡単な器具を装着して歩くだけで、その人の歩行能力を数値(データ)で知ることができます。「歩行速度、床を蹴る力、歩行の滑らかさやゆらぎなどが、すぐに数値でわかります。また、それらの結果を元にパーソナル分類することで、カーフレイズやスクワットなど、その人の足に適した運動を提案することができます」と説明してくれたのは、株式会社フォーカスシステムズの小西守氏。このように足の状態を数値で可視化することで、“歩行能力低下の予防と改善”を狙いとしています。「咲洲テック・ラボ・プログラムでは、さまざまな年齢層のデータが取得できたのが収穫です。大阪産業局主催のイベントだけでも1,500件以上集まりましたし、その他にも大阪市主催のイベントなどにもつなげてもらったおかげで若い世代のデータも収集できました。またメンターの方々に、マーケットへの展開方法についてアドバイスしていただけたのも参考になりましたね」(小西氏)
⑦ヘルスケア(ロボットハンド・筋電技術)
Human Augmentation Lab./KAWATEK CO., LTD
バイオテック業界に携わって20年以上となる“カワさん”ことアルバロ・リオス氏がCEOを務める『KAWATEK(株式会社カワテック)』。同社は人間の持つ能力を向上させる最先端の支援技術によって、障がいのない世界の実現を目指しています。今回展示していたのは、義手利用者が直感的に使える次世代のロボットハンド「SMART BIONIC HAND – RYO」です。AI搭載の学習型の義手で、トレーニングを繰り返すことで健常者と変わらない動きを実現します。「世界をより良くしたいという私たちの哲学が日本に合っていると思いました。また日本は福祉、介護、障がいなどに対しても手厚い国ですし、このロボットハンドは開発も日本で行い、部品も日本製のものが多く使われています。そのようなつながりもあるので日本の企業さんと協力して、製品を日本だけでなく世界に広めていきたいと思っています」(リオス氏)
⑧ヘルスケア(AIアバター・高齢者向け)
高齢者向けのAIアバターUI/susuROBO株式会社
ウズベキスタン生まれのマカチョフ・マキシム氏が創業した『susuROBO株式会社』の得意分野は、人とロボットがスムーズに会話することができるAI技術。今回のイベントにおいても独自のAIアバターによる対話体験ブースを展示していました。「AIを活用する人や企業は増えてきていますが、高齢者を中心にまだまだ難しくて使いこなせない人がほとんどです。当社では誰でも使いやすいAIアバターの開発を進めています。当社の技術であればAIアバターに性格を設定することも可能で、今回は関西弁の無人古着屋のスタッフを用意しました」。テックラボに参加したメリットについて「AI技術が発展する一方で、ビジネスケースを見つけることが大切です。このプログラムを通じて私たちは高齢者施設や介護施設を紹介していただき、実証実験させてもらうことで、それらの場面でもニーズがあることがわかりました」とマカチョフ氏は話す。今後は、高齢者向けだけでなく、店舗向け、教育分野などの市場においてもサービスを展開する予定とのこと。
⑨ヘルスケア(汗中アミノ酸分析)
健康寿命を伸ばす!汗中アミノ酸分析サービス/株式会社PITTAN
東京大学発のスタートアップ『株式会社PITTAN』は、身体の中の情報を簡単に見える化する技術を持っている企業です。「汗の中のアミノ酸を分析することで、身体の状態を見える化(データ化)して、その結果に応じて栄養学的な改善方法やお勧めのサプリなどを提案します」と話すのが代表取締役CEOの辻本和也氏。汗は非侵襲的で、感染症リスクも無く、パッチを貼るだけで誰でも簡単に採取できるとのこと。「咲洲テック・ラボ・プログラムには、当社の技術をエイジングケアで活用するために参加しました。例えば運動中の汗を分析すると、その時だけ減る成分があり、その減り具合を調べれば効果的な運動であるかを知ることができます。これらはダイエットや筋トレにも活用できますが、高齢者の方に対する適度な運動を知ることにもつながるんです」。参加メリットは人的ネットワークが構築できたこととも話す辻本氏。「私たちの研究開発ではデータ収集が重要です。このプログラムを通じて企業の他、医療大学やスポーツチームなどもご紹介いただきました。また、非侵襲の汗とはいえ生体成分を採取して研究に使うには審査などが複雑なのですが、その辺りについてもサポートしてもらえたので、本当に助かりました」
⑩エンタメ(web3・ジオソーシャル・AR)
CyberTrophy/Continuum.Social Inc.
ウォルマート出身のCEOがカナダで創業した『Continuum.Social Inc.』。同社がサービス展開しているのが、スマートフォンの位置情報技術を活用し、NFTトロフィーを獲得できるアプリ「CyberTrophy(サイバートロフィー)」です。これはジオソーシャル機能とWeb3技術を駆使し、NFTと3次元ARを通じて世界各地の探索場所を提供するアプリで、ユーザーは現実世界でその場に行くことで地図上に配置されたサイバートロフィーを獲得できます。「ソーシャルでありながら物理的な場所につながり、トロフィーを獲得したユーザーとつながれるのが、このアプリのポイント」と話すのは同社の日本法人代表を務める泉征弥氏。有名な場所や観光地などにトロフィーを配置するだけでなく、企業などの依頼により店舗や商業施設に配置することで、集客アップや目的地への誘導にも活用できます。咲洲テック・ラボ・プログラム参加の感想について泉氏は「やはりTEQSさん主催のイベントなどに出展させてもらったことで、体験者やアプリダウンロード数が増えたことが大きいですね。体験者の声などを受けて改善した点も多くあります」と話してくれました。
⑪教育(生成AI)
オリジナルストーリーで楽しく学ぶ漢字学習アプリ「かんじぃPT」/株式会社LearnMore
『株式会社LearnMore』がサービス展開しているのが、選んだ漢字を基にAIがオリジナルストーリーを編み出し、独自のキャラクターやAI生成画像によって、その場で絵本まで作成してくれる漢字学習アプリ『かんじぃPT』です。「子どもたちに自分の選んだ漢字がストーリーになることで、楽しみながら学習して欲しいというのがコアな着想です」と話すのが代表取締役社長の坂口雄哉氏。咲洲テック・ラボ・プログラムで多くのユーザーと接したことが、さらにサービスのクオリティを高めたそうです。「プログラム参加が決まった時点で、一度自社でイベントを開催したら、大きな反響をいただき、ニーズがあることはわかりました。その後、プログラムを通じて出展したイベントでも利用者の約95%から肯定的な反応をいただきましたし、アプリの機能アップにもつながるフィードバックをたくさんいただけました」。さらにイベント来場者だけでなく、出展者同士でのつながりも生まれたそう。「ロボットストリートなどのイベントで隣同士になった教育関係の企業さんとも産業局さん経由でつないでもらい、今度一緒にイベントに出ることにもなりました。」
⑫ナビガイド技術
LOOVIC/LOOVIC株式会社
誰でも簡単に自分の声でナビやガイドが作れるアプリケーション『LOOVIC』を開発したのが、LOOVIC株式会社の創業者でありCEOでもある山中亨氏。「約1年前の咲洲テック・ラボ・プログラムに参加した時点では、まだ何もできていませんでした(笑)。このプログラムを通じて事務局やメンターの皆さんにサポートしてもらったことで事業の集中領域を見極めることができ、ターゲットやマネタイズについても、とことん議論しました」。その結果、単純な道案内の用途だけでなく、無人ツアーガイドとしての可能性が見出されたそう。「動物園や植物園で職員さんにナビガイドを生成してもらうことで、フレキシブルに変更可能なツアーガイドにもなり、大阪の天王寺動物園でも実証実験を行うことができました」と話す山中氏。「現在はお試し版がダウンロード可能で、今後も改良を重ねていきます。将来的にはSNS感覚で使っていただき、自分の声で作る“旅ブログ”だったり、お子さんと一緒に歩きながら使ってもらうことで数年後の子どもに送るメッセージを残してもらうなど、さまざまなシーンで利用してもらえるアプリにしたいと思います」。
⑬5G
5G透明アンテナ/日本マイクロン電子株式会社
“電子黒板”で利用される大型メタルメッシュタッチディスプレイや、デジタルサイネージにも活用されている透明LEDディスプレイなどを商品展開している『日本マイクロン電子株式会社』。同社が持つ透明化の技術を応用して開発されたのが『5G透明アンテナ』です。「5Gのように周波数が上がることで多くの情報が飛ばせることになりますが、一方で飛ぶ距離は短くなる特性があります。その結果、より多くのアンテナを設置する必要があるのですが、非透明アンテナはかなり目立ちます。それを解消するために弊社では透明アンテナを開発しました」と話すのが代表取締役の坂本好隆氏。4年ほど前から商品開発には取り組んでいたと話す坂本氏は、咲洲テック・ラボ・プログラムの参加動機を次のように話してくれました。「会社や商品を知ってもらうアピールをしたいと思い参加しました。この1年で事務局からいくつか顧客をご紹介いただき、契約までつながっているので感謝しています。その他にはメンターの先生には手厳しい意見をいただきまいたが、商品自体にはとても関心を持っていただき、良いアドバイスをたくさんもらえたのも良かったですね」。
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)