【咲洲テック・ラボ・プログラム採択者インタビュー】Utsubo株式会社
テックラボプログラムのユーザー検証で「大失敗」を回避。
大阪・関西万博では1万人以上が体験したデジタルアートを出展!

Utsubo株式会社(ウツボ) CEO:ジョスラン ルカム氏
Webサイト制作からメタバース、そしてリアルな体験型インタラクティブアートへ。フランス出身、来日10年を迎えるUtsubo株式会社のジョスラン ルカムCEOに、咲洲テックラボプログラムを活用した実証実験の経緯と、その成果についてお話を伺いました。
—— まずは、御社の事業内容とルカムさんの経緯について教えてください。
ルカム氏:
私はフランス出身で、日本に来て10年になります。最初は日本語学校に通い、その後日本の会社に勤務して独立起業しました。
Utsubo株式会社は、リッチな3Dアニメーションを多用したプレミアムなWebサイトや、Webゲームの制作を大手企業向けに行っています。そこからメタバース領域へ技術を広げ、現在はさらに発展して、「リアルなインタラクティブ・インスタレーション」の開発に注力しているところです。Webの世界だけでなく、実際に人が体験できるデジタルアートには大きな将来性を感じており、現在はこれをビジネスの柱の一つにしていきたいと考えています。
—— 咲洲テックラボプログラムに参加されたきっかけは何だったのでしょうか?
ルカム氏:
プログラムのご案内メールを事務局からいただいたのがきっかけです。お話を伺って、弊社に非常にマッチする内容だと感じました。
実は当時、すでに大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」での出展が決まっていたのですが、まだ内容は100%固まりきっていませんでした。この咲洲テックラボプログラムで実証実験を行うことで、万博に向けたブラッシュアップをもう一度できる良いチャンスだと考え、参加を決めました。

—— プログラムでは7月にATC、10月にホテル(グランドプリンスホテル大阪ベイ)などで実証実験を行われました。最初の7月のATCでの実験はどのような目的だったのですか?
ルカム氏:
一番の目的は「ユーザーテスト」です。
万博出展に向けて社内で3〜4ヶ月ほど研究開発を続けていましたが、正直なところ、社内のエンジニアだけでテストをしていて、一般のユーザーには一度も触ってもらっていない状態でした。
そこで、7月にATCのエレベーター裏のスペースをお借りして、2日間展示を行いました。特に大きなイベントがあったわけではなく、週末のタイミングで通路にポンと置いてみたんです。

—— 実際に一般の方に体験してもらって、いかがでしたか?
ルカム氏:
初日は「良くなかった」です(笑)。
私たちが作った作品『Wave of Connection(ウェーブ・オブ・コネクション)』は、人の動きに合わせて映像の波が動くアートなのですが、当初はカメラの位置やセンサーの認識範囲が甘かったんです。
社内テストではエンジニア一人で操作していたので問題なかったのですが、実際の現場では子供たちがたくさん集まってきます。みんなが同時に手を出すとセンサーが反応しなかったり、使い方が分からずに戸惑ったりしていました。「このままでは、1ヶ月後の万博で大失敗する」と痛感しましたね。
でも、そこからが勝負でした。初日の夜にプログラムを修正し、反応をシンプルにして、複数人の手や体の動きに反応するように改良しました。すると2日目は、子供たちの反応がすごく良くなったんです。この「リアルな失敗と修正」を万博の1ヶ月前に経験できたことは、本当に大きかったです。
—— その経験を経て臨んだ、万博での展示の反応はいかがでしたか?
ルカム氏:
ATCでの教訓を生かして「体全体で操作できる」「6人まで同時に遊べる」ところまで改良して臨んだ結果、1週間で約1万人の方に体験していただき、非常に大きな反響がありました。もし事前のテストがなければと思うとゾッとしますね(笑)。
万博では、特に印象的だったエピソードが2つあります。
一つ目は、私たちが想定していなかった遊び方が生まれたことです。 ある来場者が画面の前で、映し出される波の動きに合わせて「ダンス」を踊り始めたんです。ただ手を振るだけでなく、自分のダンスとデジタルの波を同期させて楽しんでいる姿を見て、「ああ、こういう楽しみ方もあるんだ」と、制作者である私たちが逆に感動させられました。
二つ目は、ご高齢の方々の反応です。誰もいないタイミングに、おじいさんとおばあさんがふらっと画面の前に来られたことがありました。説明書きも読んでいない状態です。でも、彼らが自然と手を上げると、画面の中の波がサーッと反応しました。その瞬間、「おおっ!」と驚きの声を上げて、すごく嬉しそうな顔をされたんです。言葉での説明がなくても、直感的に「自分の動きが伝わった」という喜びを感じて、そこから夢中で遊んでいただけました。
子供たちがジャンプして盛り上がるのはもちろん、言葉や世代を超えて楽しんでもらえたこの経験は、私たちにとって大きな自信になりました。
—— その後、10月にはグランドプリンスホテル大阪ベイ、ATCロボットストリートでも展示を行われましたね。
ルカム氏:
はい。万博の後、今度はホテルのレストラン前の通路に約2週間設置させてもらいました。ここでは、ホテルという落ち着いた空間で、宿泊客がどう反応するか、また無人で長期間設置した場合の耐久性などを検証しました。SNS映えを狙った写真撮影スポットとしても機能しましたし、何より「ホテルなどの施設に設置することで、顧客満足度を高められる」というビジネスの実績を作ることができました。
その後、ATCロボットストリートにも出展したのですが、それが少し大変でした。ホテルの展示が10/8〜10/24までで、ロボットストリートの出展が10/25・26の日程だったんです。ホテルの24日の展示を終えると、そのまま機材をATCに移動させる必要がありました。ホテルからATCまでは歩いて数分の距離なので、TEQS事務局の皆さんにも手伝ってもらいながら、パソコン等の機材を手で持って運びましたね(笑)

—— 咲洲テックラボプログラムに参加して良かった点はどこですか?
ルカム氏:
やはり「場所」と「機会」を提供してもらえたことです。
自社だけでこれだけの規模のユーザーテストを行おうとすると、場所の選定や交渉、集客の面で非常にコストと労力がかかります。ATCのような適度に人が集まる場所でテストできたこと、そして万博やホテルといった多様なロケーションで展示できたことは、弊社の事例実績として非常に大きな意味を持ちました。
また、設営や搬入出の面でも、TEQSの皆さんに手厚くサポートしていただき、大変なスケジュールも乗り切ることができました。

—— 最後に、今後のビジネスの展望や目標を教えてください。
ルカム氏:
今後はこのインタラクティブアートを、美術館へのレンタル展示や、企業のプロモーション活用として展開していきたいです。単なるアートとしてだけでなく、店舗やイベントに設置することで集客やSNS拡散を促すマーケティングツールとして提案できます。顧客の要望に合わせて、ビジュアルや動きをカスタマイズすることも可能です。
そして個人的な大きな夢として…実は私はゲームが大好きで、任天堂やポケモンが大好きなんです(笑)。いつかゲーム会社とコラボレーションして、例えば自分の動きでモンスターボールを投げたりできるような、新しいインタラクティブ体験を作ってみたいですね。
【編集後記】
「ユーザーテストをしていなければ、本番で失敗していた」と語るルカム氏。デジタル領域のプロフェッショナルであっても、リアルな現場での検証がいかに不可欠であるかを物語るインタビューとなりました。咲洲テックラボプログラムが提供するフィールドが、企業プロダクトのブラッシュアップに貢献した恒例と言えるのではないでしょうか。
取材・文:Office Vinculo(中西 義富)

