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2024年05月22日実証実験

【実証実験インタビュー】音声メッセージギフトの実証実験

実施主体
Musuhi

実証実験内容
音声メッセージギフトの実証実験

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2024年1月13日(土)・14日(日)の2日間にわたって、『Musuhi(代表:中村 敏康氏)』による「音声メッセージギフトの実証実験」が、大阪咲洲のATC ITM棟で実施されました。今回は実施者である中村氏にサービスの概要や目的について伺っています。

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■開発の「きっかけ」は、どのようなことだったのですか?

開発のきっかけは、私の父との想い出です。父は、今から約20年前に脳卒中で亡くなりました。亡くなって9年後、私が30代後半の時に引っ越しで家の整理をしていると、父の遺品でカセットテープを見つけました。書かれたタイトルは『敏康成長記』。再生すると5歳くらいの私が遊ぶ声に重ねるように、日付や場所、私の様子などについて嬉しそうに話す、父の声が聞こえてきました。さらに私の“敏康”という名前の由来についても語っていました。それを聞いた私は、父が私を応援して天国から見守ってくれているような気持ちになりました。私の知る生前の父は、多くを語らない典型的な昭和の男です。私の場合はたまたまこのような形で父の想いを伝え聞くことができたのですが、世の中には伝えきれていない気持ち、残せていない想いが、たくさんあるのではないかと思ったんです。

私の仮説ですが、「想い出を残せば残すほど、思い出が可視化されればされるほど、人生は豊かになって幸せを感じる」と思っています。想い出を残すことが、人生のウェルビーイングを高めることにつながると考えています。

現代では子育て世代を中心に、家族や友人とのつながりやメンタルヘルスケアの観点で課題を抱えていると思っていて、例えば、記録ということであれば、今はスマホで簡単に動画が撮影できます。しかし、簡単に撮れるが故に多くのものに埋没したり、本当に大事なモノを探すのが難しかったりします。また人との関係も複雑になり、なかなか声に出して気持ちを言えない、言いにくいことも多い。さらに忙しく生活する中で、その時、その瞬間の感情は、なんとなく覚えていても、しっかりとカタチに残せていないことが多いと考えています。
そうした課題の解決にも、このサービスが役立つと考えました。

■サービス内容について教えてください

音声メッセージサービス『Musuhi』は、声で気持ちを残して、聞く手紙として想いを届ける音声メッセージギフトサービスです。利用者はスマホアプリをインストールした上で、声のアルバムに画像に紐づいた自分の音声データを残していきます。そのアルバムの中から届けたいヴォイスメッセージをテキストのショートメッセージを添えて誰かに送ることができますし、送る日付も設定できるので、5年後、10年後、さらに未来の自分や子どもたちにメッセージを送ることも可能です。

機能としては、メッセージを特定の誰かに送る「ダイレクトメッセージギフト」のほか、寄せ書きの音声版となる「グループメッセージギフト」、GPSと連動したメッセージを全ユーザーに共有することができる「メッセージボード」なども実装する予定です。

本アプリの特徴は、大切なメッセージだけを残していくのでデータが埋もれにくいこと。音声録音なので、いつでもどこでも気軽にその瞬間を収録することができること。その上で、自分の声で残すので気持ちや感情が伝わりやすいことだと思っています。

また、利用者が収録した音声データはNFT技術を使って、半永久的に残していくこともできるようにする機能も実装予定です。

■今回の実証実験は、どのような形で実施されたのですか?

2024年1月13日(土)・14日(日)の2日間、大阪咲洲のATC ITM棟で実施しました。一般ユーザーに利用してもらうのは、今回が初めての取り組みでしたので、ブース前を行き交う人々にお声がけをさせてもらい、テスト版アプリの内容からインストール方法まで説明した上で、体験してもらいました。当日は、ATC内で子ども向けのイベントが開催されていたこともあり、私たちのターゲットとしているファミリー層を中心に、多くの人が来場されていました。その中で17組の方々に体験していただきましたが、約92%が12歳未満のお子さんがいるご家庭でした。

体験していただいた方からは、好意的な意見を多くいただきました。中でも“未来について”のアンケートを取らせてもらいましたが、『遠い未来に送りたい!』という要望が多かったですね。5年後、10年後の未来へ向けて、“日常の些細なことを思い出すために”や“成人する子どもに向けてのメッセージ”などを送りたいという意見がありました。

また利用価格については、1メッセージ390円(機能に制限はありますが、無料からお使いいただけます)やサブスク利用などを想定しており、それらの価格についてもアンケートを行ったところ『妥当な価格』というコメントだけでなく、『NFT技術で半永久的に残してくれるのであればプライスレスなのでもっと高額でも利用する』という意見もいただけました。

■今回の実証実験で感じたことはありますか?

やはり“音声メッセージを残す価値”について、理解を得られていない部分はありました。私が考えるに音声にはたくさんの情報が詰まっています。例えば『ありがとう』でもテキストで書いてしまえば、表層的なありがとうですが、声に出すことで、本当に嬉しそうな『ありがとう』もあれば、泣きそうになりながらの『ありがとう』など、様々なニュアンスの『ありがとう』があり、同じ言葉でも言う人の感情や状況によって奥行きが拡がるんです。

現在、私たちも利用者にヒアリングを続けていますが、本当に感謝を伝えたい時はLINEやメールなどのテキストではなく、「会ったり電話したりして、直接自分の声で伝えたい」という結果が多く見られています。それだけに、音声メッセージを残して何かを伝えるカルチャーみたいなものを作っていくことが必要なのではと感じました。

■現在の事業課題は、どのようなことですか?

人的リソースの確保ですね。エンジニアとしてプロフェッショナルな人たちがサポートしてくれていますが、フルコミットで稼働しているのは私だけになります。そうした現状を踏まえて、私と同じ熱量、経営者目線で動いてくれるCTO(共同創業者)のような存在を探しています。現状、私の人脈を通じてリクルーティングを進めようと思っていますが、良い人がいれば、ぜひ一緒にできればと思います。

■これから展開予定について教えてください

現在は、テストアプリのβ版にて実証実験を行っていまして、2024年夏での正式リリースを目指して動いています。そして2025年の大阪・関西万博には「TEAM EXPO 2025」プログラム会場の共創チャレンジにて出展予定です。それに加えて、世界の課題を解決する良質なプロジェクトを選定して展示・発信される「ベストプラクティス」のプログラムにも応募予定なので、こちらで採択されることも目指しています。これらを足掛かりにして、ユーザー数を増やしていきながら、2030年に海外進出することを理想ではあるのですが、マイルストーンとしています。また、今年中には法人化も予定しています。

私としては、このアプリを通じてメッセージをギフトとして送り合うハピネスドリブン(誰もが幸せを感じられる)な世界を創ることをビジョンとしています。気持ちが動いた瞬間や想い出を蓄積すること、音から想起される世界をアップデートし、エモーショナルウェルネスの観点からウェルビーイングな社会にすることをミッションに、これからも活動を続けていきます。

取材・文 中西 義富(Office Vinculo)

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