【咲洲テック・ラボ・プログラム採択者インタビュー】 スパイスキューブ株式会社
初期投資を抑え、空きスペースを農地に。
超小型植物工場「アグロット」で農業の常識を変える!

スパイスキューブ株式会社 マーケティング担当:樋口裕香氏
農業従事者の高齢化と減少が深刻な課題となる日本において、「世界中どこでも農業を実現する」というミッションを掲げ、室内植物工場の設計・開発から事業化支援までを手掛けるスパイスキューブ株式会社。
今回は、同社が開発した超小型の水耕栽培装置「アグロット(AGROT)」の魅力と、咲洲テック・ラボ・プログラムを活用した実証実験や大企業とのマッチングの成果について、マーケティング担当の樋口裕香氏にお話を伺いました。

—— まずは、御社の事業内容について教えてください。
樋口氏:
弊社は「世界中どこでも農業を実現する」というミッションのもと、室内での農業を広める事業を展開しています。具体的には、植物工場の設計・開発を行うだけでなく、その後の「事業化支援」に最も力を入れています。
現在、日本の農業従事者はこの20年で半減しており、新規に農業を始める方がいても、収益化できずに離脱してしまうケースが非常に多いんです。そこで私たちは、農業の始め方から野菜の作り方、販売・流通支援、そして最後は「余った野菜の買い取り」までを包括的にサポートし、誰でも持続可能な農業ビジネスができるようにお手伝いしています。
—— 5G X LAB OSAKAに展示されている「アグロット」とは、どのような装置なのでしょうか?
樋口氏:
「アグロット」は、弊社が開発した水耕栽培装置の商品名です。
実はこの事業の原点は、弊社の代表である須貝の二つの経験から生まれています。一つは、過去のサラリーマン時代に大規模な植物工場事業で失敗した経験です。その時に須貝が気づいたのが大規模工場は初期投資が莫大にかかるということ、そして出来た野菜の売値を上げられないと、すぐに赤字となって継続できないということでした。
もう一つは、代表自身が週末に鳥取県のトマト農家へ通って農業を手伝っていたときの経験です。そこで、お世話になった農家の方が手塩にかけて育てたこだわりの甘いトマトが、普通のトマトと同じ値段でしか売れず、全く儲かっていない厳しい現実を目の当たりにしました。
この「莫大な初期投資への反省」と「農家が報われない現実」を変えるためには、まず「安くてシンプルに作れないといけない」と考えて、機械設備を最小限に削ぎ落としたのが、弊社の「アグロット」です。
小型の「アグロット120」であれば、本棚や畳1畳分のスペースがあれば設置でき、買い切り価格200万円(月額8万円のサブスクリプションも用意)で導入可能です。実際には、長く続ける前提で「買い切り」を選ばれるお客様が多いですね。ランニングコストも非常に安く、ポンプとLEDの電気代が月1,500円程度で済みます。

—— アグロットの構造や特徴的な機能について教えていただけますか?
樋口氏:
展示中の「アグロット120」には、「ディープ フロー テクニック」というパイプレーン型の養液循環システムが採用されています。これは装置下のタンクからポンプで養液を最上段へ吸い上げ、各段に設けられた「オーバーフロー構造」によって、上から下へと順に養液が流れ、常に植物の根に浸透する仕組みです。
さらに、パイプには遮光機構も備わっており、苔や藻の発生を防ぐだけでなく、水の蒸発も抑制します。植物の成長過程で消費される水分しか必要としないため、給排水工事も不要で、水道代は月にわずか4円程度と、お風呂よりも安く済むんです(笑)。このパイプレーン型の隠れたメリットは、取り外して清掃するような手間は一切必要ありません。利用者の皆様には種植えや収穫などの植物栽培の楽しい部分を体験してもらえるようになっていますので、農業未経験の企業様や、就労支援を行う福祉施設様などにも多く導入いただいています。
また、今後は大気中のCO2を直接分離・回収する「ダイレクト エア キャプチャー(DAC)」という最新技術を「AGROTシリーズ」に標準搭載していく予定です。これは最先端の吸着剤で回収したCO2を植物の光合成に活用するというもので、温室効果ガスを削減する「脱炭素化」に貢献しながら野菜の成長を促進できる画期的な機能です。
—— 育てられる野菜にも特徴があるそうですね。
樋口氏:
はい。葉物野菜であれば約500種類もの多品種栽培が可能です。「バジル」「レタス」などの他に、例えば鉄分が豊富な「レッドアマランス」や、ビタミンCが多い「レッドソレル」など、一般的なスーパーには出回らないような希少ハーブなども育てられます。
これらの付加価値の高いプロユースの野菜を求めているレストランや飲食店はいくつもあり、そうした利用者の声を元に栽培していくので、価格競争に巻き込まれず利益を残すことができるのもポイントです。
また収穫までの流れは、まず別の桶に種を植えて苗に成長するまでが約3週間、それからアグロットに作付けしてから約3週間なので、だいたい1ヶ月半くらいで収穫となります。ただアグロットに作付けするときには桶が空いているので、また次の種を植えておけば、3週間サイクルで常に次の野菜が出来ている形になりますね。
—— 咲洲テック・ラボ・プログラムに参加されたきっかけは何だったのでしょうか?
樋口氏:
事務局からお声がけいただきました。
私たちはまだ4人の小さな会社で、全員が何役もこなしている状態です。私自身もマーケティングや広報を担当していますが、人員も時間も足りない中で、「大阪・関西万博を控えたこのタイミングで、PRや展示の機会をもらえる」というのは非常に魅力的でした。TEQSに伺って、詳しいプログラム内容をお聞きして、メリットしかないと感じてすぐに応募を決めました。
—— プログラムを通じて、どのような活動や実証実験を行われましたか?
樋口氏:
大阪・関西万博関連では「大阪ヘルスケアパビリオン」での展示や弁天町駅での他企業様との合同展示は、別ルートで以前から決まっていたのですが、咲洲テック・ラボ・プログラムを通じては10月にヘルスケアパビリオンのイベントスペースにて展示とプレゼンをさせていただく機会をいただきました。
イベントスペースでは、一般の来場者に向けて「農業クイズ」を行い、正解者に野菜を食べてもらうなど、農業の楽しさや現在の課題を直接お伝えして、弊社の取り組みについてご紹介する機会となりました。私たちのような少人数のスタートアップにとって、自社だけでこれだけ多くの場所を確保し、常駐して説明し続けることは絶対に不可能です。そこを手厚くサポートしていただけたのは非常にありがたかったです。
それに加えてTEQSが運営する「5G X LAB OSAKA」で実機を常設展示させていただいたことで、本当に様々な方々に対して知っていただく機会になったと思います。

—— 「5G X LAB OSAKA」での実機展示は、期間が延長されるほど好評だと伺いました。どのような反響がありましたか?
樋口氏:
ビジネス現場において農業は「飛び地産業」なので、興味を持たれてから実際に導入されるまでのリードタイムが非常に長く、1年以上かかることも珍しくありません。しかし、「5G X LAB OSAKA」に実機を置かせていただいたことで、商談中のお客様をお連れして「動いている本物」をお見せできるようになりました。
実際に青々と育っている野菜や、水が流れるシンプルな構造を見ていただくことで、「こんなに省スペースでできるんだ」「オフィスのロビーにグリーンとして置いてもいいかも」と、お客様の反応が劇的に変わります。つい先ほどまで見学に訪れていたお客様も「ロビーに欲しい」と仰っていたと、5G X LAB OSAKAのスタッフの方からお聞きしました。見込み客の方をお連れする「ショールーム」として、非常に大きな役割を果たしてくれていますし、また5G X LAB OSAKAの展示のご紹介という形で、私たちの知らない間にさまざまな方にご紹介いただけているのも、大きなメリットだと思います。
—— 最後に、今後のビジネスの展望や目標を教えてください。
樋口氏:
現在は小型のアグロットだけであれば50台ほどご利用いただいており、小型植物工場として稼働しているところであれば11施設ほどがありますが、この数をさらに増やしていきたいです。また、食育の観点から教育機関への導入も目指しています。ただ、学校側は数年単位で学生が入れ替わるため継続的なプログラム作りが難しく、予算の壁も厚いのが現状です。それでも、感度の高い学校や保育園などと対話を続け、可能性を模索しています。
また将来的には、空き家を利用して近隣住民が集まる「コミュニティ型の室内貸し農園」を作るといった展開も考えています。やりたいことは山ほどあるのですが、まだまだ仲間の数が足りていないというのも課題です(笑)。今後も人員を増やしながら、「世界中どこでも農業を実現する」というミッションに向けて事業を拡大していきたいと思っています。
【編集後記】
代表自身が得たビジネスでの経験と、トマト農家での原体験から生まれた「アグロット」。農業未経験者でも手軽に始められ、販売まで手厚くサポートする独自のビジネスモデルは、これからの都市農業の在り方を変える可能性を秘めています。教育機関への導入や、DAC技術の搭載という新たな壁にも挑み続けるスパイスキューブ社。咲洲テック・ラボ・プログラムが提供した「実機展示の場」が、新たなマッチングを生み出した好例と言えるのではないでしょうか。
取材・文:Office Vinculo(中西 義富)

