【実証実験インタビュー】Wi-Fiパケットセンサーによる受動喫煙範囲内人数の測定に関する実証実験
実施主体
堀池 諒/大阪医科薬科大学
実証実験内容
Wi-Fiパケットセンサーによる受動喫煙範囲内人数の測定に関する実証実験
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2023年9月28日(木)から10月29日(日)までの期間、大阪医科薬科大学 看護学部公衆衛生看護学分野 助教授の堀池 諒氏によって「Wi-Fiパケットセンサーによる受動喫煙範囲内人数の測定に関する実証実験」が大阪南港のATC海のステージ付近で実施されました。今回は実施者である堀池氏に概要や目的についてお聞きしました。
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○今回の実証実験の「きっかけ」について教えてください。
一番の「きっかけ」は自分の子どもが生まれたことです。医療分野の仕事をしているので、タバコが身体に悪いことは常日頃からよく感じています。そんな中、自分の子どもが生まれて、外出時にタバコの煙に遭遇した際、子どもにはその煙を吸わせたくないと思ったことが、ひとつのきっかけでした。
その一方で研究的な側面で捉えた場合、喫煙者一人で無風の環境であれば約7m、喫煙者が三人で風がある場合だと約25mという感じで、タバコの煙がどこまで届くのかという研究は多くみかけます。しかし、その煙を何人が受動喫煙しているのか計測された事例は見たことがありませんでした。公共の喫煙所の管理者は自治体なのですが、それらの人もタバコの煙が身体に悪影響を及ぼすことはわかっているけど、なかなか撤去や移動ができないのは、受動喫煙者数を証明するエビデンスが不足しているからだと思い、このような形で計測することを考えました。
ただ、目視でのカウントは難しいですし、手間も掛かります。手間のかかる方法では全国的に計測の流れは普及しないと悩んでいた時に、Wi-Fiパケットセンサーで人混みを計測していることを知り「これだ!」と思いました。実証実験の準備を始めたのが、2023年の1月。ちょうど、そのタイミングで日本禁煙学会の研究助成金のアイデア募集があり応募したところ、幸運にも採択されたので本格的なスタートに至っています。
○今回の実証実験の概要について、ご説明ください。
まずATCの海のステージ北側にある屋外開放型喫煙所の上部に、市販のWi-Fiパケットセンサーを取り付けました。Wi-FiパケットセンサーはスマートフォンのWi-Fi機能が“アクティブ”または“スタンバイ”状態であれば、信号を受発信するので、1つの信号で一人がWi-Fiのエリア内にいると判定しています。しかしWi-Fiの有効エリアは100m以上あり、広範囲で人数を計測してしまいます。そこでセンサーとの距離が近い場合ほど、強い信号を発信する特性を踏まえて、受動喫煙の範囲となる25mまでの距離に居た人の信号強度を割り出しました。
方法としては次の通りです。15分間、Wi-Fiパケットセンサーの計測と並行して、喫煙者および喫煙所の25m以内に入った人数を目視にてカウント。その人数をWi-Fiパケットセンサーの信号数と照らし合わせて、喫煙者の人数分を差し引きます。喫煙所に居る喫煙者が最も強い信号を発しているからです。その上で喫煙所の25m以内に入った人数分の信号を拾っていき、最も信号強度が弱い部分が、受動喫煙エリアの目安となります。
その後はWi-Fiパケットセンサーで継続的にデータを取得して、15分単位で受動喫煙エリアに居た人の人数を計測していきました。
○実際に実証実験を行ってみて、どのような手応えを感じていますか?
2023年9月28日(木)から10月29日(日)までの1ヶ月間、測定させていただきました。実験の手応えとしては、まず今回Wi-Fiパケットセンサーを取り付けた場所が、非常に良い設置環境だったと感じています。Wi-Fiの電波はガラスを通りますが、コンクリートの壁などでは遮断されますので、喫煙所の背後となる建物内を行き来する受動喫煙対象外の人たちを勝手に除外してくれました。また、1日や1週間を通してバランスよく、人の往来がある場所ですので、安定したデータが、数多く測定できたのも良かった点です。
データとしては、まだ検証前ですが日中の15分間で40~60名の方が受動喫煙エリアを通過されています。ここから目視計測した情報などを踏まえて、データをクリーニングして、より正確な受動喫煙者数を割り出していく作業を、これから進めていきます。
○データ解析も堀池さんが行うのでしょうか?
元々、保健師という職業柄と大学院で博士号を取得していますので、研究活動におけるデータ解析などは得意としています。しかし疫学や統計の知識はありますが、今回はWi-Fiセンサー信号の解析ということで、苦労もありました。その部分においては、今回のWi-Fi機器をご提供いただいた株式会社社会システム総合研究所様からもサポートをいただいています。Wi-Fiで受動喫煙者を計測することは、おそらく日本で初めてということもあり、そちらの会社も「面白そうなのでやってみましょう!」と共同研究の形で進めさせてもらっています。
○今回の実証実験を終えて課題に感じたことは?
Wi-Fiパケットセンサーにおけるデータの網羅性については、課題を感じています。そもそもスマートフォンなどのWi-Fi機器を持っていない人や小さな子どもはカウントされませんし、逆に2~3台所有している人の場合は誤差が生まれてしまいます。それらの課題を解消する方法として別のセンサーでの測定も視野に入れています。なかでもLiDARであればプライバシーにも配慮したかたちで人物を検知することができますし、取得データから子どもや大人などのある程度の年齢層も推測可能なので、興味深く感じています。
○今後の展開について、教えてください。
最終的に目指すところは、Wi-Fiパケットセンサーを取り付けるだけで自動的に受動喫煙者数を測定できるシステムを作ること。そして、それを日本全国に普及させて、次世代の子どもたちを含めた“望まない受動喫煙者を減らしていきたい”と考えています。
私個人の考えとしては、喫煙者を責めるつもりはまったくありません。今の日本にはタバコ産業に関わる方もいらっしゃいますし、それらの方々を経済的に保護する法律もあります。その一方で、望まない受動喫煙をしている人もいるので、お互いに配慮できる社会になればと思っています。ですので、喫煙所を一律で排除するということでもなく、個別で設置場所などを精査する仕組みとして活用してもらうサービスになることを目指しています。
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)