【実証実験インタビュー】薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロックの実証実験
実施主体
株式会社サカイ・シルクスクリーン
実証実験内容
薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロックの実証実験
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2022年9月16日(金)から2023年2月28日(火)にかけて、株式会社サカイ・シルクスクリーンによる実証実験「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロックの実証実験」が大阪咲洲の商業施設「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」内で実施されています。今回は株式会社サカイ・シルクスクリーンの関係者に実証実験の概要や目的をお聞きすると共に、被験者として参加していただいた視覚障がい者の皆様にも、お話をお聞きしました。
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○まず株式会社サカイ・シルクスクリーンの事業内容と、本サービス開発のきっかけを教えてください
私たち株式会社サカイ・シルクスクリーンは福井県に本社・本店を置く企業で、主に駅や公園といった施設に設置される案内板やサインなどを、企画から制作、設置までトータルサポートしている会社です。また、通常の案内板が読みにくい視覚障がい者の方々に利用していただく、点字製品などのサインシステムも取り扱っております。このような事業を行う中で、視覚障がい者の方々により的確な案内や情報通知ができないかと思い、開発に取り組んだのが、今回実証実験を行う「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロック」です。
○本サービスは御社を含めた4社による共同開発ですが、それぞれの役割をご説明ください。
はい、本サービスは当社と株式会社ACCESS、セイコーホールディングス株式会社、PLAYWORKS株式会社による4社共同開発事業です。
まず、当社の点字ブロックにビーコンを埋め込む技術の特許申請がきっかけで、これに興味を持っていただいたACCESSさんから、ご連絡をいただきました。ハードウェアではある程度の実績があるものの、ソフトウェア開発は当社の課題です。そこへネットワークシステム開発に強みを持つACCESSさんからお声掛けいただいたことで、開発が一気に前進しました。さらに、セイコーさんには小型の低消費電力のBLE通信モジュール及びソーラパネルを開発いただき、それを当社の持つ薄型特殊シートへの実装技術で点字ブロックへ内蔵。視覚障がい者が抱える課題やニーズの把握をされているPLAYWORKSさんには、利用者の視点に立ったサービスデザインにおいて協力をいただいています。この4社の協業によって、世界でも類を見ない「薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロック」が誕生しました。
○実証実験の概要について、教えてください。
今回の実証実験では点字ブロックをATC内の3エリア(ITM棟2階入口、咲洲庁舎連絡通路付近、ハーバーアトリウム)に設置。1つのエリアにつき、点字ブロックは約10m間隔で2枚(A/B)セットとなっています。利用者にはスマートフォンで、事前にコミュニケーションアプリ『LINE』の公式アカウントに登録いただきます。そのスマートフォンを所持したまま該当エリアを通過すると、LINEのメッセージで道案内が通知され、利用者は音声読み上げ機能で情報を把握する流れです。
1つのエリアに2枚の点字ブロックを敷設することにより、進行方向がわかることがポイントです。まず利用者がA地点を通過した際にビーコンの電波を感知。その約10m先にあるB地点へ到着した際に、B地点の先にある駅や施設などの情報を案内しています。逆にB地点方向から歩いてきた場合には、A地点に到着したタイミングで、A地点の先にある駅や施設などの情報を伝えることが可能です。
※主なメッセージ内容は以下の通り
・ITM棟2階入口
「この先分岐点があり、左はATCホールミュージアム、大阪府咲州庁舎連絡通路、バスのりばがあります。右はATCギャラリー、フェリーターミナルがあります。」
・咲洲庁舎連絡通路付近
「この先トレードセンター前駅、フェリーターミナル、ITM棟があります。」
・ハーバーアトリウム
「この先フェリーターミナルがあります。右はATCギャラリーがあります。」
○実証実験での目的と検証内容は、どのようなものですか?
まず目的は「利用者へタイムリーに位置情報を発信し、円滑な道案内が可能であるか?」を知ることです。また詳細な検証項目としては、ビーコンの電波強度・電波範囲の設定による情報発信のタイムラグの検証、ビーコン機器への耐荷重実験。さらに視覚障がい者の方に対して、どのタイミングで、どのような情報・案内を行うことが最適であるのかの検証、加えてインバウンド向けの多言語での道案内も視野に入れた伝達実験も行いたいと考えています。
○本日、視覚障がい者の方が実際に利用されましたが、どのような感想がありましたか?
概ね視覚障がい者の皆さんには好評で良かったです。日頃から利用しているLINEなので便利で使いやすいとの声もありました。中にはモバイル端末の違いもしくは電波干渉の問題で、通知を受信できないタイミングなども発生しましたので、こちらは要検証です。あと、各スマートフォンの設定変更の難しい方が見受けられました。こちらも課題のひとつで、セキュリティやプライバシーに配慮しながら、簡単に設定変更できる仕組みをACCESSさんと検討していきたいと思います。
~利用者の声~
「スマホの設定に少し手間取りましたが、それができればLINEと同じで使いやすいです。普段は歩いている方向がわからなくなることもあるので、大まかな目安の情報でもわかれば有り難いですね。不安感が和らぐと思います」
「弱視で盲導犬と移動しています。盲導犬は進めるかどうかは教えてくれますが、方向まではわかりませんので、これは便利ですね。普段もスマホの地図アプリで目的地付近まで行くことは可能ですが、建物内ではナビができなかったり、入口が複数あったりするとどこから入れば良いのかわからなかったりします。そのような場合の道案内で効果的だと思います」
○今後の展開について、教えてください。
まず実証実験としては、次年度も応募してぜひ継続して実施したいですね。次年度は屋内だけでなく、屋外の点字ブロックにも敷設することで、防水・衝撃・摩耗などの仕様についても検証できればと考えています。また、その他の駅や公共施設などでの実証実験も行いたいと思っていますが、そのような施設に提案した場合に求められるのが実績です。その点においても、ATCで実証実験ができたことは、今後にもつながる大きなポイントになっていると思います。
サービスの機能面においては、いくつかの構想があります。例えば、視覚障がい者の道案内というだけではなく、健常者の方には周辺施設のショッピング情報や、外国人観光客にはそれぞれの言語に対応した案内、場合によっては文字だけでなく画像を送ることも可能なので、幅広く機能面での充実も考えています。また、最も重要視しているのが防災での利用です。緊急時には単なる道案内ではなく、避難情報に切り替わる仕組みにすることで、利用者の安全を守るサービスでありたいと思っています。
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)