【実証実験インタビュー】5GネットワークにおけるXR歯科手術支援の有効性の検証
実施団体名
Holoeyes株式会社
参加企業/団体
・株式会社Dental Prediction(3D printing模型、診断指導・トレーニング、手術支援)
・ソフトバンク株式会社(5G回線提供)
・医療法人社団 アップル歯科クリニック(実験参加医師の派遣)
実証実験内容
5GネットワークにおけるXR歯科手術支援の有効性の検証
実施日時
■ステップ1/2021年7月12日実施
大阪会場:5G X LAB OSAKA 東京会場:ソフトバンク株式会社 竹芝オフィス
■ステップ2/2021年8月16日実施
大阪会場:なんばアップル歯科クリニック 東京会場:ソフトバンク株式会社 竹芝オフィス
■ステップ3/2021年8月28日実施
大阪会場:なんばアップル歯科クリニック 東京会場:ソフトバンク株式会社 竹芝オフィス
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Holoeyes株式会社と共同実施者である株式会社Dental Predictionによる「5GネットワークにおけるXR歯科手術支援の有効性の検証」の実証実験を、大阪会場と東京会場を5G回線につないで実施しました。実証実験は2021年7~8月の期間で3ステップに分けて、行われています。今回はHoloeyes株式会社 代表取締役の谷口直嗣氏と、株式会社Dental Predictionの代表で現役歯科医師でもある宇野澤元春氏というキーパーソンのお二人に、実証実験の概要や目的についてお聞きしました。
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#今回のコラボがスタートした経緯を教えてください。
宇野澤氏
「まず、私が代表を務めている株式会社Dental Predictionでは、患者さんの口腔内CTデータから3Dデータ作成を行っています。従来の技術ではデータノイズが多く、精巧な3Dデータの生成が難しかったのですが、当社の特許出願中の技術であれば、ノイズの少ない3Dデータ生成が可能です。このデータをもとに作成した3Dプリンティングモデルにより、歯科医師は施術前の練習や処置方法の検討などができるようになっています。当社のこの技術をVRで表現できないかと思い、2021年2月頃に私からHoloeyesさんにお声掛けさせてもらったのが、今回のコラボのきっかけです」
谷口氏
「お話の通り、当社では3DデータをXR技術で表現するサービスを行っています。臓器などの人体の3次元情報をVRやMRを使い、医療機関向けにサービス提供しているのですが、歯科分野へのサービス展開の拡充を考えていた際に、宇野澤さんからお声掛けいただきました」
#どのようにして、5Gを使用した今回の実証実験を行う流れになったのですか?
谷口氏
「東京で主催された5Gのベンチャー支援プログラムに参加した際に、ソフトバンクの担当者さんをご紹介いただいて、5Gを使用した遠隔医療支援サービスが実現できるのではないかと思い、宇野澤さんと一緒にやってみようと思いました」
宇野澤氏
「当社では歯科医師の皆さんから、処置や手術に関するオンライン相談を受けるサービスも行っています。従来の回線では音声や映像にズレが生じることがありますが、低遅延が特徴の5Gであれば、タイムラグが無く、現場の音声や映像を見ながら、アドバイスを送ることが可能です。5Gによって遠隔地にいる歯科医師の皆さんにも、ストレス無く、新しい知識や治療技術をお伝えすることができ、実際の手術にも立ち会いながらアドバイスすることもできると考えました」
#今回の実証実験の概要について教えてください。
宇野澤氏
「今回の実証実験では、歯が欠損(虫歯や歯周病により抜歯された状態)した場合に行うインプラント手術を症例として実施しました。インプラントは知識的にも技術的にも比較的難易度の高い処置です。その手術を、経験の少ない若手歯科医師に対して、5Gを用いて遠隔手術支援することで、知識や技術の伝授において物理的な場所の制約を受けないことを実証することが狙いです」
谷口氏
「具体的には、東京にいる指導医(宇野澤氏)と大阪にいる若手歯科医師がVRデバイスを装着した上で、VRデバイスに対応したHoloeyesの医療用画像表示サービス「Holoeyes XR」と、オンライン遠隔共有カンファレンスサービス「Holoeyes VS」を活用し、5G回線にてVR空間内で3Dモデルを共有しながら遠隔手術支援を行いました」
宇野澤氏
「ただし、いきなり手術を行ったわけではなく、ステップを3段階に分けています。ステップ1では、東京竹芝のソフトバンクオフィスと大阪の5G X LAB OSAKAをつないで、東京にいる私が大阪で手術に執刀される複数の若手歯科医師の方に、過去にインプラント手術を受けた患者のデータを基に作製した3Dモデルを使用して、基礎知識、症例検討、解剖手順などを説明させてもらいました。続けて、ステップ2では実際にこれから手術予定の患者さんの3DモデルをVR映像で共有した後、症例検討と解剖手順の確認を行い、ここでは手術の流れを疑似体験してもらっています。そして、ステップ3で東京と大阪の実際に手術をするクリニックを5G回線でつなぎながら、手術を実施。私はその映像をリアルタイムでモニタリングしながら、遠隔指導とサポートを行いました」
#実証実験を終えて、どのような感想をお持ちですか?
宇野澤氏
「想定通り、ステップを3段階に分けたことで、非常にスムーズに進行しました。ステップ1でインプラント技術の基礎教育を行い、ステップ2では仮想空間内で実際の患者さんの情報を共有しながらシミュレーションと3D Printing模型を用いたトレーニングを行ったことで、ステップ3の時にはさまざまな事前情報や経験値を持って実践できるので、実際の手術はとてもスムーズに終了しました。私としては、特にステップ2のシミュレーションとトレーニングの経験がポイントだと思っています。本来であれば、実際の手術時に初めて経験する状況を、事前に見本の手技を見ながら何度でも練習できるので、医師にとっても患者にとっても安心です。リアルなデータを収集して、デジタル空間で再現してテストする『デジタルツイン』という考え方がありますが、今回はある意味、医療会では珍しいデジタルツインの実証実験だと思っています。ただ、従来のデジタルツインのテストで生まれがちなギャップを、当社の3Dモデル技術やHoloeyesさんのXR技術、ソフトバンクさんの5G回線によって、より小さくできたと感じています」
#本プロジェクトの今後のキーポイントはどのようなことですか?
谷口氏
「サービス自体は完成しているので、すぐにでも歯科クリニックへの導入は可能です。そこでキーのひとつは、安定した5Gエリアの拡充だと思っています。歯科クリニックは大通りに面したテナントビルに入居していることが多いので、比較的5Gの電波をつかみやすいですが、奥まった場所の施設や大きな医院では安定的に5G回線を利用できない場合があるので、そこは課題だと思います。加えて、歯科医師の方々にVRなどのXRという技術を浸透させることもキーになるでしょう。それらについてはプロジェクトに協力していただいているソフトバンクさんからも歯科クリニックにアプローチしてもらったり、スマートシティ構想などに参画したりすることで、より多くの方々に触れてもらう機会を増やすことを考えています」
宇野澤氏
「歯科医師へVRやMRをアプローチする方法として、私の方では『たすきプロジェクト』を進行中です。これは、私の知人の歯科医師にVR機器を送付して、私と回線をつないでもらい実際に体験してもらい、その後、別の歯科医師の友人を紹介して送付してもらう、いわば数珠つなぎのプロジェクトです。すでに多くの歯科医師の方に体験してもらい高評価をいただいておりますし、中にはクリニックの他スタッフにも体験させたいという声もいただいています」
#最後に、プロジェクトの将来を見据えてメッセージをお願いします
谷口氏
「今後、未来の医療はVRやMRの技術が当たり前のように使われていくと思います。そのような動きを加速化させるためにも、例えば普段通われている歯科などで『VRは導入されていなんですか?』と尋ねてもらえるようになれば、歯科医師の先生たちももっと真剣に先端技術に目を向けてくれるかもしれませんね」
宇野澤氏
「私の近い将来の目標は、5Gを活用した『歯科万博を大阪で開催する』ことです。日本の歯科の最先端技術と歯科クリニックが持っている強みを、VRやMRの技術と5Gを使って、世界へアピールしたいと考えています。それを大阪万博に絡めたタイミングで実現したいと思い、今、多くの方々に働きかけています。ご興味を持っていただける企業様や団体様がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただきたいですね」
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)