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2019年12月06日実証実験

【実証実験インタビュー】フィジカルチェックシステムの検証

 

実施主体
日本電気株式会社(NEC)
https://wisdom.nec.com/ja/innovation/2018070501/index.html

実証実験名
フィジカルチェックシステムの検証


2019年8月5日(月)から11月初旬までの約3カ月間にかけて、日本電気株式会社(NEC)による『フィジカルチェックシステムの検証』が、大阪舞洲の「おおきにアリーナ舞洲」にて実施されました。今回は実証実験の概要や感想を日本電気株式会社のプロジェクトリーダーである織戸英佑氏にお話していただきました。

 

#まず今回実証実験を行った「フィジカルチェックシステム」とは、どのようなものですか?

近年、スポーツをする上で怪我や故障を未然に防ぐという考え方が出てきています。その背景から、私たちが開発しているのが「フィジカルチェックシステム」です。このシステムでは1台の3Dセンサカメラで、被験者の関節可動域や可動距離を測定します。被験者はカメラの正面に立ち、決められた姿勢や動きを行います。3Dセンサカメラには奥行きも測定できる赤外線センサが入っているので、何度も同じ動きをする必要はありません。1回の計測で映像と関節可動域のデータが取得でき、3分ほどで簡単に計測が可能です。仮にトレーナーなどの人が測定することを考えても、計測データの精度の高さや、時間・費用のコストにおいても優位性は高いと思われます。

計測したデータはクラウド上にアップされ、日々データ収集をすることで、被験者の関節可動域に関する情報が蓄積されていきます。また同時に被験者にはブラウザアプリを使って、身体の状態をヒアリングします。「練習前に違和感があった」「通常通り練習に参加した」「練習後に痛みを感じた」などの項目に回答してもらい、同じく情報をクラウド上にアップ。それらの情報を、私たちNECが開発したソフトウェアでデータ解析することで、関節の状態と身体への痛みや疲労度などの相関関係を知ることができ、怪我や故障を未然に防ぐことにつなげる考えです。

 

#「フィジカルチェックシステム」は、どのような経緯で生まれたのですか?

私が少年野球チームのコーチをしている時に、ひとりの子どもが「野球肘」という怪我になり、野球を辞めてしまいました。そうした怪我や故障が原因でスポーツを続けられない子どもが一人でも少なくなればと思い、この「フィジカルチェックシステム」を考案しました。当初は個人的に動いていたのですが、私もスポーツで怪我とリハビリの経験があるので、そのつながりを活かして、法政大学スポーツ健康学研究科/スポーツ健康学部の泉研究室と連携させていただき、会社の新規事業プロジェクトとして立ち上げ、ここまで進めてきました。


 

#今回実証実験の概要を教えてください

まず今回は、2019年8月5日(月)から11月初旬までの3カ月を対象に、大阪舞洲の「おおきにアリーナ舞洲」で活動されている総合学園ヒューマンアカデミーバスケットボールカレッジ(※)の皆さん20名にご協力いただき、関節可動域に関するデータを収集させていただきます。カレッジの活動日は週2回なので計24回分/20名分のデータが蓄積される予定です。また計測する関節可動域の項目は、通常より多めの10項目に設定しています。関節の箇所によっては相関関係の出ないところもあると思いますので、10項目の中からより相関関係の深いものに着目し精度を高めると共に、将来的には項目を絞り込むことで現場での計測に対する負担軽減にもつながると考えています。

※バスケットボールに関わる”プロ”を育成する専門校。大阪エヴェッサと教育提携しており、大阪エヴェッサ育成システム「ヤングスターバスケットボールプログラム」を実施。ヒューマンアカデミー株式会社が運営。

 

#これまでの実証実験の結果を踏まえて、見つかった課題はありますか?

現在(取材当時:2019年10月)はデータを計測・収集している段階で、関節可動域と怪我や故障などの相関関係を知るところまでは出せていません。ですが、データ測定における運用上の課題は、いくつか発見できています。

ひとつは、3Dセンサカメラでデータ計測する際の測定環境です。現状では「おおきにアリーナ舞洲」の一角で測定していただいていますが、「スペースが十分に取れない室内でも問題なく測定できるのか」や「赤外線センサが外光や床面の反射光などの影響を受ける場合がある」などの課題が挙がっています。

また、被験者の方にはブラウザアプリを通じて身体の状態をヒアリングし、回答は基本的に“自己申告”です。その際、協力していただいているカレッジの皆さんは現役プレーヤーでもあるので、身体の状態や痛みの有無などによって、選手選考やメンバー争いから漏れることを危惧されたりもします。そうした被験者の心理面を考慮して、この「フィジカルチェックシステム」を利用する目的と意味を明確化することが、一層必要だと感じています。

 

#今後の展開を教えてください

今後の目標は「フィジカルチェックシステム」をスポーツの現場に普及させ、どのようなスポーツにおいても競技人口を増やすことに貢献していきたいと思っています。関節可動域は因数分解された身体の動きです。今回の実証実験ではバスケットボール選手が対象ですが、測定する関節の組み合わせを変えることで、野球・サッカー・バレー・陸上など、さまざまな分野で活用ができます。

また測定した関節可動域の評価基準・レベルを変更することで高齢者などの健康寿命を伸ばすことにも役立てたいと考えています。加えて、現代人の職業病ともなっている肩コリや腰痛リスクを判断するなど、スポーツ以外の領域へも応用可能です。特に長距離ドライバーや看護師、介護士など、身体の状態によって仕事のパフォーマンスが左右される職種の方々を雇用される企業には、一般的な健康診断だけでなく、整形外科的な見地から行う健康診断として利用してもらうことも想定しています。

先日イベントに出展した際に取材に来られたラジオDJの方が、番組内でこのシステムのことを「身体の動きの体温計」と表現されたのですが、まさにその通りでさすがの表現力だと思いました。私たちは“体温が39度ある”と聞けば身体の不調をイメージできますが、“肩が180度しか上がらない”と言っても、それがどうゆう状態なのか、今はまだイメージが湧かないと思います。それが誰にでもわかりやすいものになるようにしていくことが、この「フィジカルチェックシステム」の役割だと考えています。

取材・文 中西 義富(Office Vinculo)

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