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2019年12月17日実証実験

【実証実験インタビュー】公共空間における接客ロボットの実証実験

 

実施主体
共同グループ
株式会社サイバーエージェント AI事業本部 AI Lab(代表:馬場 惇)
大阪大学 大学院 基礎工学研究科 石黒研究室 (代表:石黒 浩)
立命館大学 情報理工学部 ヒューマンロボティクス研究室(代表:岡藤 勇希)

実証実験名
公共空間における接客ロボットの実証実験

2019年7月16日(火)~8月4日(日)にかけて、株式会社サイバーエージェント、大阪大学、立命館大学の共同グループによる『公共空間における接客ロボットの実証実験』がアジア太平洋トレードセンター(ATC)内のITM棟2階で実施されました。今回は、その実証実験の概要や感想を株式会社サイバーエージェント AI事業本部 AI Lab代表の馬場惇氏とResearch Scientistの尾崎安範氏にお話していただきました。

 

#今回の「公共空間における接客ロボットの実証実験」の目的や概要について教えてください
私たちの共同グループ(株式会社サイバーエージェント、大阪大学、立命館大学)は、人とロボットが円滑に対話するための技術開発を目的として活動を行っています。また、その応用としてロボットが人を接客し、店舗の売上アップや告知・販促活動を行うことも考えています。
今回の『公共空間における接客ロボットの実証実験』では、ロボットを使い通行人の興味関心を引き、店舗へ誘導するところまでを実験しました。実験の状況は、まずATCのITM棟2階の通路脇で、ロボット(Sota®)をテーブル上に設置。テーブル後方には、周辺の画像情報を組み合わせて180度ほどの視野角で人の動きを感知する独自センサーを配置し、人を認識するとロボットが通行人に向かってダンスや呼びかけを行うことで、興味関心を引き寄せます。そのアクションに人が反応し近づき立ち止まると、ロボットが情報発信を行い、終了時にATC内の商業施設(めんたいパーク)で交換可能な飲料水のクーポン券を発行する流れです。

 

#この実験でポイントになったのは、どのようなことですか?
通行中の人に興味関心を持ってもらうために、いくつか仮説を立てまして、その中でも「宛名性」と「文脈」はポイントとしました。「宛名性」とは声がけをしている相手を特定することです。今回は通行人が一定の範囲に入った時点でロボットがその人の方向を見続け、立ち止まるとロボットから「聞いてくれるの?」と会話のきっかけを作り、しっかりとコネクションすることを意識しました。また「文脈」においては、取り立ててロボットに関心が無い人にも話を聞き続けてもらう理由が必要だと考え、会話の冒頭に「困ったな~」という風なセリフを盛り込み、より親身になって耳を傾けてもらう工夫をしています。加えて、ロボットが話す説明の時間も、実験中の利用者の反応を見ながら修正を行いました。当初は約2分間で行っていたものを1分へと短縮し、最終的には40秒にまとめています。

 

#実証実験の感想や手応えを聞かせてください。
大型商業施設で実施したのは、今回が初めてで、良い実験になったと感じています。まだ、詳しいデータは分析中なのですが、実証実験期間中、テストやセッティングなどの時間を省いて、実働した6日間では約300本の飲料水を配布することに成功しました。この結果から、少なくとも300人は実店舗へ送客できたということになります。当然ながら、クーポンの発行枚数は300枚よりもさらに多く、ロボットに反応してくれた人や立ち止まり話を聞いてくれた人も、これ以上の人数となりますので、それらの割合を把握するために、現在映像記録を分析中です。
また印象として、子供を含むグループ(ファミリー)には良い感触を得ました。土日の実験では約5,000名の人が通過して、約150グループがロボットの前で立ち止まってくれたのですが、半分以上が子供連れのグループでした。「ロボットと子供」の相性の良さを改めて認識できた点は良かったと思います。

 

#実証実験で見つかった課題は、どのようなことですか?
今回、通行人の属性推定に市販のソフトウェアを使用しました。しかし、そのソフトウェアは本来少人数向けゲームなどに使用されるもので、商業施設の通路のように多くの人を認識することを想定したものではありません。その結果、大量に人が通過する場面では認識が不十分になることがありました。通行人が物陰に隠れて再び現れた場合に別人と勘違いしたり、遠い距離と近い距離の人を上手く区別できなかったりしたので、その辺りは改善すべき点だと感じています。
また、この実験では「取り立ててロボットに興味ない人の注意を引き、情報を伝えて、飲料水のクーポン券を配布する」というのが、ロボットに課せられた“タスク”でした。その中で人の注意を引くロボットの行動として、先ほどの「困ったな~」や「そこのお兄さん!」という呼びかけや、ダンスを踊るしぐさなどを用意しました。こちらも詳細は映像での分析待ちなのですが、実験を観察した印象ではどのアクションに優位性があったのか判別はできなかったので、通行人が止まらざるを得ないようなキラーアクションを見つけ出すことは課題といえます。ただ、このタスクに関しては仮にロボットではなく人間が行ったとしても難しいと思っていますし、同じことを人間が行った場合に、どれだけの数のタスクを達成できるのかもわかりづらいところです。なので、近いうちに人間とロボットで同様のタスクを実行した場合に、どれくらいの違いが生まれるのかを実験しようと考えています。

 

#実証実験の場所としてATCには、どのような印象をお持ちですか?
非常にやりやすかったです。運搬や設置など、私たちの希望していたことを最大限聞き入れていただきました。初日のセッティングの際には、露店を出店されていた方がわざわざ横に移動していただき、実験のやりやすい場所を譲ってくれたりもしました(笑)。施設自体が、このような実証実験に慣れていて、受け入れ体制ができていると感じます。またオフィスや飲食店などがあり、日時によってシチュエーションが変化するのも良いところでした。平日は比較的穏やかな人の流れがあり、土日にはイベントで多くの人が来場するなど、さまざまな環境下での実験が一度に行えることは大きなメリットだと思います。それに加えて、映像記録に関しても寛大に対応していただけるのは、とても助かった点でした。

 

#今後の展開を教えてください
今後の展開としてはブラッシュアップした内容で、再度ATCでの実証実験を予定しています。展開の軸としては2つを考えていまして、1つは先ほどもお話した「ロボットと人との比較実験」です。この実験ではロボットの動きや言葉のバリエーションを増やし表現力をアップさせることで、“どんなアクションが通行人を立ち止まらせるために有効的なのか”を深堀したいと考えています。もう1つの軸としては、「ロボットの後方に設置した180度カメラによる属性推定の精度を高める実験」です。これには、より多くの人の動きや行動を正確に認識して、ロボットの動作に反映する狙いがあります。これら2つの軸が上手く組み合わせることができれば、実際の店舗などに設置してもロボットから対話を開始することが可能です。これまで何も無かった場所でも、ロボットによる商品紹介や店舗誘導も可能となるので、ビジネスとして店舗や商業施設へ導入する流れも見えてくると思います。

取材・文 中西 義富(Office Vinculo)

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