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vol.37

物理学の発見を、高速センサと省エネメモリへ

TopoLogic株式会社
佐藤 太紀 氏

TopoLogic株式会社
佐藤 太紀 氏

世界的コンサルから、物理と社会の橋渡し役へ

2016年のノーベル物理学賞に関連する理論として、世界中の物理学者が熱視線を送る「トポロジカル物質」。この物質の持つ特性を活かして、半導体メモリやセンサの未来を変えようとするディープテック・スタートアップが、2021年に創業したTopoLogic株式会社。同社の代表を務めるのは、世界的コンサルティング会社出身の佐藤太紀氏。その佐藤氏に、物理学の基礎研究とビジネスの間にある「ギャップ」をどう埋めようとしているのか、そしてなぜ開発拠点として大阪・南港を選んだのか、そのプランと想いを伺った。
「まず、私の経歴からお話しすると、元々は経営コンサルティング会社で働いていました。そこで様々な企業の経営課題に向き合ってきた中で、ある日、知人を介して東京大学の中辻教授の研究の話を聞く機会があったんです」
「中辻先生の研究チームは、トポロジカル反強磁性体という新しい物質を発見していました。ですが、彼らはあくまで物理学科の研究室です。『新しい物理現象』を見つけることは得意なのですが、それを半導体デバイスやセンサといった『製品』に落とし込むノウハウは持っていませんでした。中辻先生も大企業に相談していたりもしましたが、企業側の反応は『材料の特性が素晴らしいのは分かる。でも、どう料理(製品化)していいか分からない』というものだったそうです」
「基礎研究で発見した『材料』はあるのに、それを社会で使える形にする『料理人』がいない。このギャップを埋める存在がいれば、社会に対して大きなインパクトを与える、大ジャンプができる! そう確信して、中辻先生と共同でTopoLogic株式会社を立ち上げました。メンバーには半導体や電子デバイス産業出身の経験豊富なベテランエンジニアを集めて、私たちは『物理学と社会の橋渡し役』になることを決めたんです」

常識を覆す「熱」検知と「省エネ」メモリ

同社が開発を進める製品は大きく分けて、熱流束センサ「TL-SENSING™」と磁気メモリ「TL-RAM™」の2つとなる。これらは、現代社会が抱える「安全性」と「エネルギー問題」に対する強力なアンサーになると佐藤氏は語る。

「まずセンサについてですが、従来の温度センサとは概念が根本的に異なっています。『バケツの水』に例えると、従来のセンサは『バケツの水位』を測るものでした。水が溜まって(温度が上がって)、溢れそうになって初めて『危険だ!』とアラートを出す。これでは検知までにタイムラグが生じます」
「対して我々のセンサは『蛇口からどれくらいの勢いで水が入っているか』、つまり水(熱)の『流量』そのものを検知します。蛇口をひねった瞬間、バケツに水が溜まるのを待つことなく『水が入ってきたぞ!』と検知できる。だから、従来比で二桁倍以上、場合によっては0.01秒レベルでの超高速反応が可能なんです!」
「さらに、このセンサは髪の毛よりも薄い数百ナノメートルの薄膜で作られています。これも大きな鍋の水より、小さい鍋の方が早くお湯になるのと同じ理屈で、薄ければ薄いほど熱は早く伝わる。この特性を利用すれば、最近よく話題になっているモバイルバッテリーの発熱や、EV(電気自動車)のバッテリー発火などを未然に検知して、対処することも可能になります」

もう一つの柱である磁気メモリ「TL-RAM™」は、AI時代に不可欠なデータセンターの課題に直結している。

「今や電力不足は大きな社会課題で、特に生成AIなどを動かすデータセンターの電力消費が、世界的な社会問題になっています。あまりの消費電力量に、地域によっては『電力インフラが持たないので、これ以上建設できない』と規制される事態も起きているんです」

この問題を解決する鍵となりうるのが、TopoLogicが開発する磁気メモリ「TL-RAM™」。その仕組みは、かつての「ビデオテープ」の原理をナノレベルで進化させたものだという。

「実は技術のベースにあるのは、磁気テープと同じ『磁石』の原理です。従来の磁気メモリ(MRAM)は、素子の中の磁石の向き(S極・N極)を変えることでデータを記録しています。それを現在は素子としてチップ化されたものがあり、我々はそこに『トポロジカル反強磁性体』という新しい材料を組み合わせました」

「この材料を使うと、データの書き込みに必要な電流を極限まで小さくでき、なおかつ動作速度を圧倒的に速くできるポテンシャルがあります。現在、AIの計算処理を担うGPUチップの中には、一時記憶を行う『キャッシュメモリ』が入っていますが、我々はこの部分をTL-RAMに置き換えようとしています」

なぜ東大発ベンチャーが「大阪・南港」を選んだのか

本社は東京大学のキャンパス内にある同社だが、磁気メモリ「TL-RAM™」開発の心臓部は、ここ大阪・南港のTEQSにある。なぜ、東京ではなく大阪だったのか。佐藤氏はその理由を「人の縁と、ハードウェア開発特有の事情」だと明かす。
「実は、メモリ開発チームのメンバーの多くが、国内某半導体メーカーの兵庫・伊丹事業所出身なんです。彼らは世界トップレベルの技術を持っていますが、生活の拠点は関西にあります。開発チームを立ち上げる際、わざわざ東京に来てもらうのではなく、『彼らが働きやすい関西に拠点を作ろう』と考えました」
「それにハードウェア開発は、ソフトウェア開発とは違ってパソコン一つでは完結しません。試験装置や測定器を置くための広いスペースが必要ですし、エンジニアは毎日出社して機器を動かす必要があります。そこで見つけたのがTEQSでした。スタートアップにとって非常にありがたいコスト感で利用でき、十分な広さと設備環境が整っています。現在も常に4〜5名のメンバーがここで開発に没頭しています」
実際に入居してみて感じたメリットについて、佐藤氏は「経営的な視点」と「働く環境の視点」の両面から語る。
「まず経営者としてありがたいのは、やはりコストパフォーマンスです。スタートアップにとって、毎月出ていく固定費は大きな負担になります。TEQSは施設や立地のクオリティに対して、賃料などのコストが非常に抑えられており、これは本当に助かっています」

「あと、意外と大事なのが食事環境ですね(笑)。本社のある大学内の施設は、どうしても飲食店が少なくて選択肢が限られるのですが、TEQSのあるATC(アジア太平洋トレードセンター)には飲食店がたくさんあるので、ランチの選択肢が多い(笑)。海も近くエンジニアたちがリフレッシュしながら働く上では、こういう環境面も無視できないポイントです。会議室も柔軟に使えますし、快適に利用できていると思います」

またTEQSに入居した最大のメリットとして佐藤氏が話してくれたのが、ソフト面での支援。つまり「企業とのマッチング」だ。

「大阪産業局の方々を通じて、関西のものづくり企業とつながれる点が非常に大きいんです。先日も展示会で、地元の企業様を紹介していただきました。我々のお客様は大企業が多いので東京にもクライアントはいらっしゃいますが、実際に現場で開発を担う関西の企業様とは、東京にいるとなかなか接点が持てません」

「『東京の展示会までは行かないよ』というような、現場の技術者の方々とつながれることは、ファブレス(工場を持たない)メーカーを目指す我々にとって、非常に重要な資産になっています。関西は電気、機械、化学といった産業の一大集積地です。ここで顧客やパートナーを開拓できることは、事業成長のスピードに直結していると感じています」

「餅は餅屋」。泥臭く進める社会実装戦略

メーカーでありながら、TopoLogicは自社工場を持つつもりはないという。そこには、元コンサルタントである佐藤氏ならではの、クールかつ現実的な経営判断があった。
「正直、品質管理や生産管理といった『工場運営』の部分は、自分たちではやりたくないですね(笑)。誤解を恐れずに言えば、そこをゼロから立ち上げるのは、スタートアップにとってリスクが高すぎます。自動車業界であれば、採用から搭載まで軽く数年はかかる世界です。その間、PPM(100万分の1)オーダーの品質保証をクリアし続けるなんて、一朝一夕でできることではありません」
「しかし日本の製造業には、何十年もかけて培ってきた『高品質なモノを量産するノウハウ』を持つ素晴らしい企業がたくさんあります。そのノウハウを我々が数年で真似できるとは思えない。だからこそ、『餅は餅屋』です。我々は革新的なレシピ(設計)を作ることに集中し、料理(製造)はプロフェッショナルなパートナー企業にお任せする。それが、最短で社会に技術を届ける道だと信じています」

また、技術を売り込むための「事業開発」の人材採用基準も独特だ。単にモノを売る営業力ではなく、「大企業の論理」を理解していることを重視したいという。

「我々が採用したいのは、単なるセールスマンではありません。大手の製造業などで『技術企画』や『研究開発の戦略室』にいたような方々です。 なぜなら、我々の技術が採用されるには、顧客である大企業の『社内政治』や『開発プロセス』の壁を突破しなければなりませんから」

ハードウェアの採用には、長い年月と複雑な評価試験が必要となる。どの部署にアプローチし、どのような技術データを提示すれば、次のステージ(稟議や試作)に進めるのかが、肝になるということだ。

「『技術が良いから買ってください』では、なかなか大企業は動いてくれません。『御社のこの開発プロセスの、このタイミングで、こういうデータがあれば社内を説得ができますよね?』というように、顧客の内部事情に精通し、彼らの言葉で提案できる人。そういう『元・中の人』に参加してもらって、チームにジョインしてもらいたいと思っています」

「技術開発も事業開発も、『できる人にやってもらう』。餅は餅屋です(笑)。それぞれの領域で一番パフォーマンスが出せるプロフェッショナルを配置するのが、TopoLogicの組織戦略ですね」
掲載日 
取材・文 取材・文 中西 義富(Office Vinculo)