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vol.36

株式会社カワテック

株式会社カワテック
アルバロ・リオス 氏

株式会社カワテック
アルバロ・リオス 氏

メキシコから来日したバイオテクノロジーの研究者

2023年9月にメキシコからやってきた、株式会社カワテックのCEO アルバロ・リオス・ポベダ氏。まずはご自身の経歴と、遠く離れた日本で起業することになった経緯を伺った。

「来日前、メキシコではバイオテクノロジーの研究者と、自分の会社を経営していました。メキシコの会社では主に身体障害者のサポートを目的として、すぐに実用可能な製品を開発していましたが、日本で設立したカワテックでは未来を見据えて、バイオテクノロジーによって人間の能力を高める製品づくりに取り組んでいます」

日本で会社を設立した理由を、世界に先駆けて高齢化社会を迎える日本で、自身の持つ技術が生活の質の向上に貢献できると考えたからと、アルバロ氏は話す。

「日本に来ようと思ったのは2018年頃です。メキシコの日本大使館に私の研究技術やアイデアを説明したところ、日本ではそのような技術を持っている企業は少ないという話を聞きました。当時の私とすれば日本はテクノロジーやロボティクスが発展している国という印象だったので少し驚きでしたが、私の研究技術と日本の企業で協力すれば、新しいテクノロジーが生み出せて社会の役に立つのでは? と考え、日本で起業してみようと思いました」

「拠点を大阪にしたのは、大阪や関西には大手の医療機器メーカーが多いことが重要な要素でした。また東京に比べてビジネスに係るコストが抑えられること。それに大阪人のキャラクターも重要でしたね。日本人は割と内向的な人が多いというのは知っていたけど、大阪人は友好的な人が多い印象だったので(笑)」

「TEQSに入居したのは2023年です。TEQSの前にはATCの「IBPC大阪 (一般財団法人大阪国際経済振興センター国際部)」にオフィスを借りていました。そこのオフィスは半年間だけ無料で利用できるのですが、その間に同じATCにあったTEQSを紹介していただいた縁で、入居することを決めました」

義手の常識を覆す、バイオニックハンド『RYO』

株式会社カワテックのコア製品となっているのが、先端技術を駆使したバイオニックハンド(義手)『RYO』。この製品の独自性について、アルバロ氏は熱く説明してくれた。

「従来の義手の場合、上肢障害者が初めて使用する際に、コントロールすることが非常に困難です。自然に使うことが、とても難しいんです。これが一番の大きな問題で、上肢障害者でも使用することを諦める人が多くいます。その点、カワテックが開発したバイオニックハンド『RYO』は、利用者がどのようにコントロールしたいのかを学習しているので、誰でも短時間のリハビリ期間で使えるようになっています」

「また義手を利用する方が、それらの操作のために「視力」を犠牲にしていることも大きな問題です。例えば、テーブルにあるコップを掴む時。健常者の場合、コップの場所を一度認識すれば、後は何となくの感覚でコップを掴むことは容易に行えます。しかし、一般的な義手を利用する方の場合、コップのようなモノを掴む動作を行う際は、その対象物に集中しなければいけません。それが「視力」を犠牲にしているという意味です」

「しかし、私たちの『RYO』であれば、義手自体が頭脳を持っているように機能します。健常者と同じように一度視認すれば、自然に手の位置を調整してコップを掴むことが可能ですし、掴んだときの感覚も利用者の身体にフィードバックされるテクノロジーが備わっているのです。固くて重量のあるモノはしっかり握りますし、生玉子を掴む時は素早く割れない程度の力加減で掴むこともできます。それらの機能は3つの複雑なアルゴリズムを組み合わせることで制御しており、このようなアイデアを私自身が考えて、複数のエンジニアと協力して開発しているのです」


『RYO』はすでにイベントや体験会などを通じて、日本の人たちにも利用体験されていて、好評を得ているそうだ。

「『RYO』は人間の筋肉の動きを読み取って、動きを再現することができます。2024年のATCロボットストリートでは子ども向けの展示として、健常者の子どもたちの腕に電極を付けて手を動かしてもらうことで『RYO』が同じ動きをするデモンストレーションを行い好評でした。また別の機会では、実際に骨肉腫で手を切断した子どもにも利用体験してもらったのですが、初めて装着した時からスムーズに動かすことができ、親御さんもとても驚いて喜んでいらっしゃいました」

日本、そして世界で認められるバイオテクノロジー製品として

2025年以降は、さらに日本での本格的なビジネス展開を進めたいと話す、アルバロ氏。

「製品としての『RYO』は完成しており、日本でも販売がスタートできる状態です。ただ、現在は厚生労働省の福祉機器の登録申請を行っているところで、この申請が通れば患者さんにも保険適用製品として少ない負担でご利用いただけます。正確な金額はまだ決めきれていませんが、おそらく従来の義手とさほど大差のない価格で提供できるのではないかと、日本の専門家の皆さんとも話をさせてもらっています。この登録申請をなんとか2025年度中には通したいと思って動いています」


そして、さらなる未来に向けてもアルバロ氏は目標を定めている。

「バイオテクノロジーの製品としては、さらに良いモノを作りたいと思っていますが、どんな人にでも利用してもらえる製品やサービスを開発していきたいですね。まずは日本でいろいろな企業や人に認められて、私たちの製品が便利で良いツールであることを世の中に知ってもらうことが目標です。日本で認められた後は、他の国でも同じように製品を開発・製造していきたいと思っています」

「また別プロジェクトで『義眼』の開発も進行中で、すでに患者さんは見つかっていて、後は協力してくれるパートナー企業を探しているところです。さらには、このような障害を持つ方向けのテクノロジーだけでなく、今、力を入れていることに人間の能力を拡張させる「ヒューマンオーグメンテーション」があります。これは障害の有る無しに関わらず、すべての人がテクノロジーを利用することで生活の質を向上させることにつながる技術です。例えば、高齢者の身体機能が衰えていく中で、それを補い、より良い生活を長く続けてもらえるようなテクノロジーを開発していきたいと考えています」

「日本だけでなく、世界でも高齢化社会は大きな問題になっています。その社会問題に対して、私たちの開発した製品が役に立つように、これからも頑張って行きたいですね」

掲載日 2025年3月1日
取材・文 取材・文 中西 義富(Office Vinculo)