Menu

Interview

TOP > マガジン > 入居者インタビュー > 株式会社Dental Prediction 宇野澤 元春 氏 株式会社Dental Prediction
vol.33

テクノロジーで歯科業界にイノベーションを起こす

株式会社Dental Prediction
宇野澤 元春 氏 株式会社Dental Prediction

株式会社Dental Prediction
宇野澤 元春 氏 株式会社Dental Prediction

不可能と言われた歯科業界の課題解決を目指して

歯科医師でありながら最新テクノロジーを駆使して、歯科業界へ新たなアプローチを見せているのが『株式会社Dental Prediction』の代表取締役 宇野澤元春氏。「Dental Prediction(デンタル プレディクション)は長いので、自分たちでも“デンプレ”と呼んでいます」と笑う宇野澤氏に、まず起業の経緯を伺った。

「日本で歯科が始まって約150年。その中で解決不可能と思われている課題が2つあります。その課題を他の歯科医師たちと一緒に、最新テクノロジーを使って解決に導く、もしくはそのきっかけ作りをしたいと思ったのが、企業コンセプトです」

「課題の1つは歯科医師が技術職であり、経験を積まないと技術が身につかないと言われていることです。歯科医師が経験を積むためには時間とお金のコストが必要となり、また経験する環境として動物実験や一般の患者様にも協力してもらわなければいけないこともありました。このように歯科医師育成に関する課題は、昔から言われ続けています」

「もう1つは一般の人に関することです。定期的に歯科受診される人は全国で3~4割程度。逆に言えば6~7割は、普段歯科に来ることはありません。歯科医師は来院されればケア方法や歯の重要性をお伝えすることはできますが、それ以外の方々にお話する機会はほとんど無いんです。患者様以外へ歯の重要性を伝えることは歯科業界が苦手としていることで、この課題を解決すれば、予防の概念も広がり患者様も痛い思いをしなくて済みますし、医療コストの抑制にもつながります。この2つの課題を、私はどうにかして解決したいと思っています」

宇野澤氏は歯科医師ではあるが、クリニックは開業していない。

「大学卒業後、病院の口腔外科医となりました。その後、歯科医師として3年間アメリカ留学をして海外の歯科医療を経験。そして帰国して感じたのは、“日本の歯科業界が良くも悪くも変わっていない”ということです。おそらく誰かがアクションを起こさない限りは、日本の歯科業界はこのまま続いていくのだと思いました」

「帰国した私にもクリニック開業の誘いはありましたが、9割以上の歯科医師が開業する中で、私は違う形で歯科業界にアプローチできないかと考えました。実は、先程お話した2つの課題に対する解決方法のアイデアはすでに持っていたのと、それを手助けしてくれる人々のツテもいくつかあり、何かと動き始めていました。そんな中でお会いする人たちから会社名を聞かれることが増え、資金や補助金などのさまざまな支援のことも含めると、『起業したほうが良いのでは?』となり法人化したカタチです」

アイデアとテクノロジーで医師と患者をサポート

不可能と言われている課題を解決するために実践しているのが、現在の事業内容となっている。

「『DenPre 3D Lab』は歯科医師のトレーニングや患者様への説明等にご活用いただける模型や XR(VR・AR・MR)コンテンツを提供するサービスです。従来、歯科業界では手術のトレーニングにマネキン模型や豚の骨などを使って練習していました。当然、リアルの手術とは全然違いますし、何より患者様の口の中を正確に見るのは術中が初めてということがほとんどです。だから歯科医師は術中にどのように処置するのかを考えながら進めています。これがベテラン医師であれば経験によって、さまざまな判断ができますが、若手医師であれば判断に迷うことも出てきます」

「これを解決するのが『DenPre 3D Lab』です。患者様の一般的なCTデータがあれば、当社で XRデータ(VR・AR・MR)や3Dプリンター模型を制作してお届けします。これによって医師は、事前にリアルな手術のシミュレーションやトレーニングが可能となりますし、患者様には手術前に正確な説明を行うこともできます。近年増えてしまっている医療事故や医療過誤などに対するリスクマネジメントにもつながるサービスです」

さらに宇野澤氏自身が多彩な臨床経験を持つ歯科医師であり、その他にも事業パートナーとして複数の歯科医師と連携していることで、別の強みも発揮している。

「私たちの会社は歯科医師の集団でもあるので、『DenPre 3D Lab』によるデータや模型の提供だけでなく、医療支援としてのアドバイスも行うことができます。術前のトレーニングサポートや術中のアシスタントにも付けますし、依頼があれば出張オペを担当することも可能です。また、これらのサービスを活用して、将来的には5Gなどの次世代通信網を使い遠隔教育や医療支援を行うことも想定して事業を展開しています」

2021年には5G通信とVRを使った遠隔医療教育の実証実験を行った実績を持つ同社だが、現在はより手軽に3Dデータを活用できるアプリ開発にも取り組んでいる。

「VRを使った医療支援や若手教育は現在も進めていますが、まだまだヘッドマウントディスプレイの普及率などが課題です。その点スマートフォンは、ほとんどの人がお持ちなので、現在はスマートフォンで当社の3Dデータが閲覧できるアプリ開発に力を入れています。当社では歯や骨のパーツごとに3Dデータ化する特許技術を有しているので、従来のCT画像とは違い、歯を動かしたり抜いたりした場合のシミュレーションを行うことも可能です」

こうした歯科医師向けのサービスを行う一方で、一般の人向けに歯の重要性を伝える事業も展開している。

「定期的に歯科を受診しない人が多いと話しましたが、それに加えて歯科医師と一般の人とのコミュニケーションが不足していると、私は感じています。それらを解消するサービスとして、当社が展開しているのが歯の健康相談アプリ『mamoru』です。アプリ利用者はメールで相談がいつでも気軽にでき、歯科医師から返事が届きます。近隣のお勧め歯科の検索や予約も可能です」

「また、このようなアプリは単独展開しても普及が難しいので、当社では楽天モバイルさんと組ませていただきました。200万以上ダウンロードされている楽天シニアアプリのコンテンツに入ることで多くの人に知ってもらい、なおかつ歯の相談をすれば楽天ポイントを付与する実証実験を行ったところ、3000件以上の相談が寄せられました。この実績もあり、2024年4月からは正式に楽天モバイルさんでリリースされることになっています」

「加えて、老健や介護施設とも連携して利用促進を行っています。また、口腔ケアは糖尿病とも関連性が高いので、糖尿病の管理指導を行う病院やクリニックなどにおいても、当アプリを通じて歯や口腔内の相談が受けられる仕組みづくりにも取り組んでいます」

歯科の数が多い東京と大阪の二拠点で活動

もともと宇野澤氏自身は東京都出身。本社も東京である“デンプレ”と、大阪・咲洲エリアのTEQSとの出会いは5Gによる実証実験だった。

「TEQSさんとの御縁は、大阪産業局さんのIoT・ロボットビジネス実証実験支援プログラムにおいて、Holoeyes株式会社と共同で「5GネットワークにおけるXR歯科手術支援の有効性の検証」の実証実験をさせてもらったことが始まりです。当社は東京本社のベンチャー企業ですが、歯科医院の数では東京と大阪が圧倒的に多く、この2ヶ所をメインターゲットだと捉えています。その大阪にもサテライトオフィスの位置づけで、どうしても拠点が欲しかったので入居させていただきました。それと実際に大阪で活動してわかってきたのですが、大阪の歯科医師の方は新しいものに対して、とても好意的で積極的に活用してくれるので、実証実験などもとてもやりやすく感じています」

2023年にはATCを会場として、『大阪歯科万博2023』を主催した同社はTEQS入居のメリットについても話してくれた。

「2025年の大阪・関西万博に向けて、プレイベントとして歯科万博を行いたいと企画していて、2023年に『大阪歯科万博2023』として実現することができました。しかしベンチャー企業が単独で大きなイベントをすることは、かなり大変です。それがTEQSに入居していたおかげで、準備段階や運営面でもさまざまなサポートをしていただきましたし、会場のATCさんとも連携されているので、非常に助かることは多くありました。またイベントや実証実験などを実施する際も、どれだけ対外的にインパクトを与えられるかも重要なので、広報・告知・集客のサポートもしていただけたことは、本当に助かりましたね」

万博本番をステップとして、さらに成長を目指す

これらの活動が2025年の大阪・関西万博の本番へと繋がっていく。

「大阪・関西万博では、大阪ヘルスケアパビリオンに設置されるリボーンチャレンジ枠にて出展を希望しています。国内外から一般の人が多く来場されると思いますので、歯科に対して興味を持ってもらえるような取り組みを考えていて、具体的にはバージョンアップした歯の健康相談アプリ『mamoru』を紹介していく予定です(※)」
※補足:取材後、正式に出展が決定

そして、事業としても本格的なステージへ向けて、さらなる成長を目指して進む。

「これまでは実証実験などで実績作りを重視したプレシリーズでしたが、今後はより結果を求められるステージに変わっていきます。とはいえ、新しいことに取り組んでいる企業なので、日々実験と改良を重ねながらアップデートしていかなければいけません。そのような状況において、今後の課題となってくるのが『人材』です。現在、常勤が3名、業務委託が35名という体制で動いていますが、今後営業やマーケティングなどの分野においては人材が必要になってくると思っています。それらの分野を踏まえた、さまざまな面において人的リソースの確保は課題です」

「また人材採用と並行して、資金調達も行わなければいけません。これまではVC(ベンチャーキャピタル)とお話させていただくことが多かったのですが、今後はCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの出資や資本業務提携を行うことで、お互いにシナジーが発揮されるような関係構築をしていきたいと思っています。歯科向けのサービスや歯に関する事業を展開している企業さんとは親和性が高くお付き合いできるのではないかと考えています」
掲載日 2024年4月11日
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)