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vol.32

遠隔操縦技術の活用で、労働力をリソースシフト。現場作業の人手不足解消を目指す

ORAM株式会社
野村 光寛 氏

ORAM株式会社
野村 光寛 氏

遠隔操縦技術の普及を目指して、独立起業を決意!

建機・物流車両に後付けして遠隔操縦を可能とする装置の開発や、遠隔操縦の普及・施工効率向上のためのアプリケーション開発に取り組んでいる『ORAM株式会社』。代表取締役であり、自身も工学博士である野村光寛氏に、まずは創業までの経緯を伺った。

「関西大学大学院を修了後、オムロン株式会社センシング研究所に入社しました。ちょうど2000年頃で、画像処理や画像認識技術の研究を行っていて、当時はガラケーのカメラで名刺を撮影して、文字認識するアプリなどを開発していましたね。その他には、カメラとレーザーセンサを使って自動車の自動走行に役立てる技術開発なども担当していました」

「その後、オムロンを退職し、もともとロボティクス開発にも興味があった私は、産業用機械や建機の設計・製造を行っている家業の機械メーカーに入社。同社は建設機械や産業ロボットの設計製造、建設仮設足場の整備・洗浄装置などのシステム構築を手掛けています。」

「また同社はスーパーゼネコンさんともお付き合いがあり、そこから建機の遠隔操縦ロボットの開発依頼を受けました。その時に開発したのが、建機に後付けして遠隔操縦を可能とするレトロフィット装置で、遠隔操縦装置としては現在も国内トップクラスの性能だと高評価を受けています」

「その後、無人遠隔操縦のアイデアが生まれ、国内大手の機器メーカーさんと共同でプログラム開発を開始しました。しかし、大手メーカーのプロジェクトの場合、建機メーカーも1社とタイアップするケースが多く、そうなると利用範囲が限られてしまいます。なので、私個人としては建機や物流車両の遠隔操縦技術が広く普及してほしい思いが強く合ったので、どの建機にも対応できるサードパーティ企業として『ORAM株式会社』で独立することにしました」

一石二鳥で社会問題を解消できる可能性

遠隔操縦の普及をミッションとして、2021年に設立された『ORAM株式会社』。遠隔操縦にこだわる理由を、野村氏はこのように話す。

「まず一つは、建設現場での働き手不足の社会問題です。すでに起きていることですが、地方では道路や橋の修繕・舗装工事などに手が回らず、老朽化したまま放置されているケースがあります。そして今後は、ますますインフラ整備が行き届かない時代が来るでしょう」

「では、なぜ建設現場の働き手が不足しているか。3Kと言われている理由もあるでしょうが、それ以外にも現場作業員の就労時間の非効率性も問題です。山間部の現場であれば到着までに2~3時間の移動時間がかかり、現場でも別の作業が終わるまで自分の作業ができないという待ち時間も頻繁に発生します。このような非効率な就労時間を、遠隔操縦技術を活用すれば解消できるのです」

「その一方で、遠隔操縦は働きたくても働けない人たちの社会参画を促すことも可能です。例えば、子育て中でまとまった就業時間の取れない人や、身体的に障がいをお持ちでやりたい仕事ができない方などであっても、この技術や仕組みがあれば活躍できる場が増えていきます。これらの人的リソースを上手くマッチングすることが可能な新たなビジネスモデルを構築することができればこの技術・事業は、遠隔操縦ビジネスとして、次世代に活躍する労働と雇用の社会基盤として大きく成長する可能性があり、社会問題の解決にも役立てると考えています」

遠隔操縦システム全体をトータルでサポート

ORAM株式会社の事業は遠隔操縦装置の開発・販売だけではない。遠隔操縦におけるシステム一式「遠隔施工トータルソリューション」の提供となっている。

「私たちの提供するソリューションは、『装置』『通信』『操縦席』の3つに分けられます。まず装置はメーカーや機種は不問で、既存建機に取付可能なレトロフィット遠隔操縦装置『RemoDrive』。これを操作レバーに取り付けることで、多種多様な建機や物流車両が遠隔操縦可能となります。サービスの基本として、これら装置の販売・取付・セッティングを行います」

「通信ではパートナー企業と連携して無線システムを構築します。通信が途切れず、移動体に搭載できる低遅延が特長の「Rajant Kinetic Mesh Wi-Fi」で、これによって広域な現場でも複数台の遠隔操縦が実現可能です」

「最後の操縦席は「Switching Cab」と呼ばれるもので、1つの操縦席で複数台の建機を操縦可能とします。例えば、これによってショベルカーを操作していた作業員が作業後に、画面をパチっと変えるだけで、すぐに横にあるロードローラーを操作することも可能です。安全かつ迅速に建機の種類なども問わずに遠隔切り替えが実現できるよう、切替シーケンスを採用しています」

TEQS経由の出会いで大きなメリットも。建機だけでない、遠隔操縦技術の可能性

TEQSに入居したのは2021年12月。入居のきっかけは、隣接する『5G X(クロス) LAB OSAKA』だったと野村氏は話す。

「前職から国や大阪府などの支援を活用しながら、ものづくり事業を展開していましたし、総務省の許可を得て5Gの実証実験なども行っていました。そんな時に『5G X LAB OSAKA』が立ち上がったニュースに興味を持って、いろいろと調べるなかで、同じ施設内にインキュベーションオフィスがあることを知ったんです。起業前でちょうどオフィスを探していた頃なので、すぐ横では5Gを使った実験や検証ができる施設もあるとなれば、願ったり叶ったり。すぐに入居を希望させてもらいました」

TEQSに入居するメリットについては、“想像以上の支援”と話す野村氏。

「入居後は想像以上の御支援をいただいています。例えば、本来であればビジネスコンテストやアクセラレーションプログラム、補助金制度なども自分自身で調べて参加・応募する必要があると思うのですが、弊社のようなベンチャー企業では人手と時間が足りなくて難しい場合があります。しかしTEQSに入居していると事務局の方々がORAMの事業内容を把握してくれているので、私たちの事業にマッチしたコンテストや支援プログラムを案内してくれたりします。2022年6月には案内してもらった『5Gビジネス開発補助金』が採択されて、建機模型を使った遠隔施工シミュレーターと遠隔オペレーターの育成システムの試作開発を行いました」

「加えて、人脈づくりの面でもメリットがありました。TQESのご紹介で大手建機レンタル業者様とつながりができ、現在同企業と連名で、国土交通省が組成する遠隔操縦の安全に関するルール作り等の選定メンバーに入ることができました。これは本当に大きなメリットです!」

現在の課題と今後のビジネス展開についても、野村氏に伺った。

「今後の課題はORAM社内の人的リソースの確保ですね。TEQS事務局や協業してくれる方は、たくさんいらっしゃるので、みんなで事業を進めている感覚ではあるのですが、落ち着いて考えると社内のリソースは、関西大学理工学部准教授の倉田先生が非常勤のCTOとしてジョイン頂いておりますが、フルコミッションで働いているのは私ひとりなんですよね(笑)。だから人材の確保はやはり急務。とくに私の思い描いていることをカタチにしてくれるソフトウェアエンジニアや、ビジネスモデルの検討に付き合ってくれるCTOは早く見つけたいと思います」

「まず建機の遠隔操縦で多くの引き合いをいただいているので、そちらでもっと実績を積み上げていきたいですね。その上で『既存機械』『無線システム』『映像確認』というキーワードで、遠隔操縦技術を活用すれば、さまざまな分野で利用できるとも考えています。例えば、除雪や芝刈りなどの作業。“豪雪地帯に降り積もった雪を、別の温かい場所から誰かが雪かき作業をする”。そんなことも実現可能になります。私の理想は、遠隔操縦技術がもっと身近なモノになること。面白くない仕事が面白くなったり、過酷な作業が楽にできるようになったりと、そんな手品のようなことが遠隔操縦を活用すればできると信じています!」
掲載日 2023年08月10日
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)