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vol.27

ヴァンダイク技法で芸術的作品を創造

アートオフィスK
藤本 和富 氏

アートオフィスK
藤本 和富 氏

国内外での受賞歴を持つ、若林久未来をサポート

古典的な写真技法を駆使した作品で、国内外で個展を開き、展示会やコンテストで数々の受賞歴を持つ写真作家の若林久未来(くみこ)氏。その若林氏の活動をサポートする『アートオフィスK』代表の藤本和富氏に、まずは起業の経緯を伺った。
「若林は私のいとこで、彼女が幼少期の頃には6年ほど一緒に暮らした時期もありました。その後はお互いがそれぞれの人生を歩んでいて、私はケミカルエンジニアとしてのコンサル業、社団法人でのSDGsの企業実装支援をしていました。そんな中、大阪芸術大学の写真学科を卒業し、写真家となった彼女から『アートオフィスとしても活用できるギャラリーを開きたい』という相談を受けたことから、私がそれを手伝うことになったんです」

若林氏が実践する古典的な写真技法について、藤本氏が詳しく解説してくれた。
「若林が得意としているのが『ヴァンダイクプリント』という技法です。これはデジタルカメラなどで撮影した画像からネガプリントを作成し、日本和紙を印画紙にして、それに現像します。印画紙に日本和紙を用いることが若林の特徴で、和紙の多様性によって薬品の浸透に差が生まれ、唯一無二の芸術写真が作り出せます。そして、もう一つの技法が『ガラス湿板写真』です。こちらはフィルムの代わりに薬液を塗ったガラス板を使用するもので、撮影と現像に手間がかかり、非常に繊細さが要求される写真技法になります」
若林氏はこれらの写真技法を用いた作品で高い評価を受けており、国内では2014年の公募展「芦屋写真展」でグランプリを受賞。2018年にはフランス・パリで開催された国際公募展「サロン・ドートンヌ展」で入賞も果たしている。

TEQS入居で、より本格的にビジネスへ

TEQSインキュベーションオフィスに入居したのは2020年9月頃。「それまで若林は、昭和町でギャラリー兼レンタルスペースを運営していて、自身の作品を展示する傍ら個人塾やヨガ教室などに場所を提供していました。事情により、その場所が利用できなくなり、新たな活動拠点として見つけたのがTEQSでした」。入居した感想として藤本氏は、開口一番「来て本当に良かった」と話す。「今までは若林個人での芸術活動が中心でしたが、TEQSセミナーや入居企業との交流など、入居によってIT面でも様々なサポートを受けることができました。私たちの活動範囲では出会えなかった人たちとつながることができて、感謝しています。良くも悪くも個人で営むギャラリーでは自己満足に近いものでしたが、TEQSに入居することにより、芸術とITを組み合わせて、ビジネスとして良い方向に向かい始めていると感じています」

AIDORアクセラレーションでの学びとITを活用した事業展開

また、『アートオフィスK』はTEQSの入居と同時期に、AIDORアクセラレーションプログラムにも参加している。
「IT分野での出会いも増えると思い、若い方々に混じって参加させてもらっています。馴染みのない用語などが多く難しいですが、ここでもTEQSのスタッフの皆さんに情報整理してもらうことで助かっています。実際に、AIDORアクセラレーションでの経験や、TEQSセミナーなどで学んだことが、現在の事業展開に良い影響を与えていると感じています」

作品の販売、制作だけでなく教室事業も展開

現在の『アートオフィスK』としての事業は、3つで構成されていると藤本氏は話す。
「一つは、当然ながら若林自身の『作品販売』です。もう一つは、依頼者の希望に合わせて作る『受託制作』です。想い出の写真や記念日に撮影した写真などを、ヴァンダイク写真で仕上げてお届けします。そして、最後の一つが『教室事業』です。ヴァンダイク写真などを学びたい方や体験してみたい方に、若林が写真技法を直接指導していきます。この教室事業では体験教室として参加してもらうことも可能ですし、作品として仕上げることで展示会に出展することも可能です。若林には国内外の展示会に出展するノウハウがあるので、その辺りを含めての事業展開を考えています」
また、このようなアート業界では指導した生徒の作品が、仮に販売された場合はロイヤリティが発生する仕組みがあるので、ロイヤリティビジネスとしての展開も視野に入れていると、藤本氏は話してくれた。

最後に現在の課題と今後の事業展開について、藤本氏にお聞きした。
「課題は、作品販売や受託制作の数を伸ばしていくことです。そのためにも若林自身のプロモーション活動をもっと幅広く積極的に進めていきます。そこで鍵になるのがウェブサイトの内容を充実させて、より活用することです。現在のサイトはギャラリー的な要素が色濃いことから、芸術に関心の高い欧米や中国からのアクセスもあるのですが、そのチャンスが売上につながっていません。今後改修予定のサイトでは、日英中の言語に対応して、作品を購入できるミュージアムショップ的な要素を盛り込みたいと思っています。
加えて、作品一つひとつにストーリー性があるのも若林の特徴なので、それら作品の解説をサイト上で音声案内できる仕組みが組み込めないかと思案しています。そうしたIT分野に長けた方とのマッチングが生まれると嬉しいですね。また教室事業についても幅広い展開を模索中で、こちらでは写真館や写真教室などを運営している事業者様との協業などを考えています。
また、本年5月には大阪・関西万博の「共創チャレンジ」にも現在の取組をエントリーしまして、広く活動をPRして、共創パートナーを募っています。
若林の作品は絵画的な作風でもあるので、絵がお好きな方やキュレーターのような方ともマッチングできると良いですね」
掲載日 
取材・文 中西 義富(Office Vinculo)

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